北海道 東京 荻窪 湘南

大沼公園といふのは、なかなか景色がよささうだね。北海道へも、一度ぐらゐ行つたつて悪くないな。ええと、時間はどうなつてる

で、ぼつぼつお引上げになる方もありますんですよ。東京の方も、お涼しいさうでございますね、昨今は……。

もんですからね。その番頭さんから、今朝、電話で、東京も昨晩から大雨で、浴衣一枚では寒いくらゐだつて申して参りまし

さうでございますかね。昨晩、こちらの番頭さんが東京へ参りましたんですよ。一寸、用がございましたもんですからね

夫　　おい、君、東京の話はよしてくれ。折角、仕事の事を忘れて、二三日ゆつくり

夫　　いつそ、東京へ帰らうか。

夫　　――東京は随分涼しいさうね。こちらは毎日暑くつて、海へ一度もはひりませ

あたし、百合子さんに、かう書いたの。――東京はさぞお暑いことでせう。こちらは、朝夕の散歩に羽織がいる

ですか。ええ、さうです。え、東京から……。東京の誰から……？　早くつないでくれ給へ。あ、もし、もし、

もし、なんの用ですか。ええ、さうです。え、東京から……。東京の誰から……？　早くつないでくれ給へ。あ

夫　　なんの話だつて聞いてるよ。はははは。東京は暑いかい。さうか、昨夕からね……。こつちは、もつと

おもてなしもできません。その気持にもなれません。東京の住居は、それや静かな、奥まつたところにありますのよ。

暮してゐるとまで附け足した。そこで、おれは、東京へ帰つたらなんて云はずに、今、これから、あなたの部屋へ行つて

いろいろ細かい話もあつたが、それは略して、兎に角、東京へ帰つたら遊びに来てくれと云ひ出した。寂しく婆やと暮してゐる

、忙しいもんでね。なに、十分保養にはなつたよ。東京を離れるといふことが第一の目的なんだから……。天気の

夫　　一々心配することはない。お前は、東京へ帰るまで、重役の夫人になつたつもりでゐろ。

妻　　東京へ帰つてからも、そのつもりでゐたいわ。

今夜の予定を聞かしたら、そんなことは云へない筈だ。東京には何があると思ふ。オーヴアーランドがあるぜ、千疋屋があるぜ、お前

の新しい計画を話して聞かさうか。お前は何時か、荻窪へ行つた時に、芝生で囲まれた家を見て、かういふ家

、大枚五円の宿料を払つて、名にし負ふ湘南の海水浴場に来てゐるのだ。少しは、気の晴れることもして