大阪 本郷 巴里 東京

せ。あのね、お祖母さま……弘さんが急に大阪へいらつしやることになつたんですつて……。

老婦人　　ほんと、大阪へいらつしやるつて……。

老婦人　　大阪へは、お勤めの口がきまつたんですか。

老婦人　　実地研究といふわけですね。大阪には、お知合ひがおありになるんでしたね。

老婦人　　もうぢき本郷のお叔母さまが見えたら、御挨拶だけして、すぐあしたのおさらひ

老婦人　　（手紙を受け取り、開封する）本郷へ電話をかけてね、もう奥さんはお出掛けになつたかつて聞いてごらん。

つる　　あの、本郷の奥さまは、もう一時間ばかりまへにお出掛けになつたさうでございます。

、お前、一人で行つておいで……。行けるね。本郷の叔母さまを見つけてね、一緒にお父さまを探してお貰ひ……。

老婦人　　さうかい。本郷の叔母さまは、婦人待合室で待つてらつしやる筈だからね。時間は

。（手を放す。急いで、注射の用意をする）本郷に御親戚があるんでしたな。電話がありますか。

、お祖母さま、あなたが、お祖父さまと御一緒に巴里でお写しになつた写真が、この間、お母さまの手文庫から出て来

てまはつても仕方があるまい。以前のやうに、巴里に落ちついて、研究をしてゐるんなら別だけれど……。

東京の近郊――

さうとも限りませんわ。ぢや、なんですね、東京へは滅多に出ておいでになれませんね。