盗まれた手紙の話 / 坂口安吾
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区なにがし町――といつても、つい先年まではさしづめ武蔵野などと言つてゐたあたりの、なにがし精神病院内、なんのなにがしと書いて
すでに武蔵野の田園は暗闇のはるか底へ沈み落ち、深川オペラ劇場主人の熟睡も暗闇のはるか
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深川区なにがし町なにがし番地オペラ劇場主人なんとかの草石といふ雅号を刷つた
×月×日の夜がきて、深川オペラ劇場主人は指定のおでん屋へ出掛けて行つた。
いや、どうも。深川オペラ劇場主人はことのほか初対面の挨拶にかけては自信があつて、
深川オペラ劇場主人は人の顔付を判断して咄嗟にこつちの言葉使をきめて
余所目にも深川オペラ劇場主人があんまり面喰つてゐるものだから、樫の葉の御人が
言ひながら、胸にさした樫の葉をつまみとり、これを深川オペラ劇場主人の鼻先へヒラ/\させて、ネ、これでせうねと
深川オペラ劇場主人はことごとく恐縮して、額や首筋をハンカチで拭き、それから扇子
と、深川オペラ劇場主人は坐直して、腹にひとつ力を入れた。今しがた夕めし食つ
なんとまあ話の運びの巧い奴だと、深川オペラ劇場主人はたまりかねて、つい泡盛を一杯ぐいと飲みほした。
といふのは、深川オペラ劇場主人がこのおでん屋へ罷り出てから相当時間もたつてゐるのに、
の視線がまつすぐ向いてる先の方へ辿つて行くと、深川オペラ劇場主人の肩の上を素通りして璧に突当る筈であつたが
れることに極つたが、手ぶらで帰る馬鹿はないから、深川オペラ劇場主人はここで又につこり笑つて、さて、一膝のりだした。
と、深川オペラ劇場主人は、ここで又、一膝ぐいと乗りだした。
深川オペラ劇場主人はふところから何やら紙をとりだした。
てゐるのに相違ない。目を開けて、出馬表を深川オペラ劇場主人に手渡した。
あんまりアッサリしてゐるので、深川オペラ劇場主人は拍子が抜けて言葉がでない。鮒のやうな目付をし
いや、どうも、深川オペラ劇場主人は冷水を浴びたやうにぞッとした。樫の葉の御人
だうにもこれは仕方がない。で、深川オペラ劇場主人は十円札を二枚とりだした。
なにがし競馬で深川オペラ劇場主人が大儲でもしてくれゝば、芽出度し/\といふ
なにがし競馬で深川オペラ劇場主人は一日地団太踏んでゐた。流れる汗を拭くのも忘れて
顔役ともあらう者が――それほどでもないが、深川の旦那ともあらう者が――これもだうも、それほどでもない
深川の顔役ともあらう者が――それほどでもないが、深川の旦那
そこで翌日、深川オペラ劇場主人は日当一日五円づつ仕事のあとでは充分に振舞ひ酒と
受付から浮かぬ顔付で戻つて来て、自動車の中の深川オペラ劇場主人に報告した。
これを見ると深川オペラ劇場主人は胆をつぶして、突然うろ/\と鉄格子のはまつた窓
地平線の森の頭にかかつてゐる頃であつたが、深川オペラ劇場主人は、なにがし区なにがし町、つまり例の病院からひろびろと畑つづきの
深川オペラ劇場主人は追憶のために胸がつまつてきたやうである。彼は
虎八と鮫六は慌ててあとを追ひかけたが、深川オペラ劇場主人は振向きもしない。畑の遥かまんなかへフラ/\と泳いで
深川オペラ劇場主人は畑の枝豆の中へ顔を突つこんで泣いてゐたが
虎八と鮫六は深川オペラ劇場主人の手を引つぱつたが、もはやグニャ/\と手応へ
、一貫目もある氷を一本ドッカと入れて、こう、深川のおにいさんといふ者はかうして豆腐を食ふものだなどと威張りながら、
すでに武蔵野の田園は暗闇のはるか底へ沈み落ち、深川オペラ劇場主人の熟睡も暗闇のはるか底へ沈み落ちたが、虎八と鮫
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病院へ送られて来たかといふと、当時自分は東京近郊の小さい駅の改札をやつてゐたが、改札掛といふものは
東京帰りの汽車に乗つても正宗の壜を鷲掴みにして地団太踏んでゐる
「東京てえところは世智辛いところで、生馬の目を抜くてえところだから、
田舎の人は律儀で口不調法だといふから、色々と東京を心配しますねエ」
あびる。夕めしだ。するてえと、おふくろが、うまい物は東京で食ひ飽いてることだらうからと言つて、小供の頃俺が大好物だつ
へ帰つたと思ひねエ。そのときは何だぜ。東京中の名物といふ名物はみんなトランクへつめたものだつたな。お
一昔前のことだつたな。俺が三十五の年だ。東京で一人前に身を立てゝ、錦を飾るとまではいかねえが、くに
「俺もくにへ帰つて百姓がしたくなつたぜ。東京は泌々世智辛くて厭だねえ、運送屋の先生。ポロリと涙が雑炊の
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時自分は、或る乗客の手が自分に向つて、直ちに池袋まで駈けつけ、豊島師範学校の前まで行き、そこで踵をめぐらして戻つて来
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時の乗客は四十がらみの極めて貧相な洋服男で、恐らく銀座の雑踏で再会しても一目で見分けがつくと思ふが、南洋系の
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、自分は自動車をぐる/\走廻したあげく、最後に新宿の酒場の前で車をとめた。これが一代の過失であつた
前自分が不覚の泥酔によつてこの病院へ送られる前夜新宿の酒場で見かけた妖婦があつた。
自分は自由を我物として、早速新宿の酒場へ駈けつけ六年間の愛慾を金によつて復讐したいと考へて
ものだし、二百円の金を握つて六年前の新宿さして駈けつけようといふ心根もほろりとするほど味がある。
ではありまするが、生憎のお時間で。いづれ又改めて新宿へなとお供させていただくことに致しまして、本日のところは。
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が十六の年だつたな。高等小学校を卒業して、日本橋のいわしやの小僧になつて始めて上京する時のことだ。俺の生れ