満洲 パリ 名古屋 四国 箱根 ストックホルム 静岡 神戸 東京

けれど、あの相馬つていふ男がゐなかつたら、登志子は満洲から無事に帰れたかどうかわからなかつたんだぜ。そのうへにだ

それから、子供のことね、貞坊のこと、これも満洲へ置いて来たことなんぞ、うつかり生徒たちの耳へはいらないやうに気を

思文　　姉さんはあのひとのおかげで、無事に満洲から引揚げて来られたんだつていふけど、さういふ恩義は、あんまり大きく

柴山　　憚りさま、どうせさうでせうよ。満洲で食ひはぐれた、たかが一女ブローカーを、省次長閣下夫人が、よくせきのこと

、洋食料理の講義にかけちや、日本一ですぜ。フランスはパリのホテル・マゼステックで、葡萄酒倉の鍵をあづかつてたイソムラといへば、わし

たね。学歴はと訊くから、小学校卒業、あとはフランスはパリの料理大学といつてやつた。そんな大学がほんとにあるのかときくから、

ですがね。もし、僕のことをたづねられたら、もう名古屋へ発つたつていつてくれませんか。

思文　　名古屋へ？

は僕だよ。塾長が来たらね、僕はついさつき名古屋へ発つたといつてくれたまへ。いま会ふとうるさいことがあるから……

相馬　　（静かに登志子の方に歩み寄り）僕、これから名古屋へ行くんだ。

登志子　　名古屋へでもどこへでも行つたらいいわ。

をして、あなた、それでどうもないの。平気で名古屋へ行けるの？　あたしは絶対にあなたの玩具にはならないことよ。

海がたいへん好きでございましてね。生れが、なにしろ、四国の海岸ださうで……。

、君は、聖女だよ。迷へる羊を連れて、箱根へでもどこへでもぶらぶらでかけるといいや。

て、スエーデンで十年ばかり暮しました。その間に、ストックホルムのそばの修道院へしばらくはいつたりしましたが、領事さんがハルビンで亡くなら

かかりませう。六月いつぱいにはできあがるだらう。機械は静岡までもう来てるんだ。取付けは簡単さ。七月にはいれば作業開始

あたくしは、妙な経歴の女でしてね。はじめ、神戸でドイツの領事さんのところへアマにまゐりましてね。それから、その

東京の都心に遠い某区ならびに沼津海岸

な校舎ぢやありませんか。これだけの建物は、いま東京に残つてる学校ぢや、さうざらにありませんぜ。（思文に）

もうひとつ、わたしのひそかに期待してゐることは、東京の本校へもある程度、作業をもち込む。例へば容器の製作とか

登志子　　東京へ帰りますわ。あとで別荘の方へお寄りすることはするけれども

やむを得ずつていふのは皮肉だわ。ハルビンから東京までぐらゐ、もつと危い目にあつたかもしれないけれど、ひとりで帰つ

てることが、実にはつきりして来ます。あなたを東京へ送り届けたら、それで僕の任務は終つた筈なんです。ところが

登志子　　あたしは東京に半月、こつちに半月でいいでせう？