満洲 樺太 軽井沢 四国 大阪 神戸 高松 神田 東京

ぬと思ひ、夢のやうな計画を抱いて、朝鮮から満洲、それからシベリヤを歩きまはつた。

もう狐は牡牝二頭しか残つてゐない。いづれも樺太産の優秀な種狐であるが、場主の星住省吾は、これさへ適当

シベリヤ、カムチャッカ、樺太を渡り歩いたといふだけで、なにをしてゐたか誰も知らない。

しかし、これは今にはじまつたことではない。樺太にゐる時から、この流儀のために、ひとから悦ばれたり、うるさがられ

星住省吾は、三十五の年に、カムチャッカを引きあげて、樺太へ渡つた。裸一貫であつた。Ｔ大学で鉱物学をやり、鉱山勤めの口

星住省吾が、若い妻を携へて樺太を去つたのは、一千九百三十五年の秋である。

れた。狐は見る見るうちに数を増していつた。軽井沢あたりから自動車を飛ばして来る客もあつた。生きながら毛皮を予約される狐

為木音也は四国の生れである。貧農の家に育ち、小学を終へるとすぐに丁稚奉公

有馬巡査が、ある、と答へた。実家が四国の農家で、若い頃は野良へも出てゐた、といふ履歴がもの

つけたといふ理由であつた。彼は、当てもなく大阪をさ迷ひ歩き、やつと洗ひ屋の下仕事の口を見つけたと思つたら

大阪で寺男をしてゐる頃、住職の肝入りで、血色のよくない銭湯の出もどり

ペンキ屋で五年の年季をすますと、人にすゝめられて神戸へ渡つた。塗料会社といへば大きいやうだが、職人はたつた三

、小学を終へるとすぐに丁稚奉公に出された。高松のペンキ屋で五年の年季をすますと、人にすゝめられて神戸へ渡つ

どうだ？　ほれ、楢沢の別荘地に疎開してござる神田さんちふを知つとるだらう？」

神田老博士は、大学を停年でやめ、著述に専念してゐる植物学の地味

音也といふ見るからに適任らしい人物が現れたことを、神田夫妻はよろこんだ。

「前つていふと、神田さんのところでは、いくらもらつてたの？」

星住省吾は、神田博士の自筆になる人物証明書なるものを、今、見せられたところである

さういふことになるかな。但し、円満にだよ。神田さんから暇を取つた時と、おんなじだ」

また、このつぎの就職に役に立てば、わたしも、神田さんのやうな人物証明を書いてあげてもいゝ」

、著述に専念してゐる植物学の地味な学究である。東京の家を焼け出されて、この山荘へ命からがら逃げ出して来た、おそらく最後