伊香保神社 和泉 榛名山 堺 神楽坂 梅蘭芳 シベリア 伊豆 アムステルダム 江戸 横浜 妙国寺 武蔵野 巴里 神戸 渋谷 日本橋 神田 東京 上野 隅田川

伊香保神社の前にまで、

思へば和泉の国にて聞いたその声も

榛名山の一角に、

堺の街のあきびとの

堺の街の妙国寺、

見上げた高い神楽坂、

おお、あなた故に、梅蘭芳、

梅蘭芳、

それがまた、梅蘭芳の

シベリアを行き、独逸行き、

伊豆の海岸にて

相模、伊豆、安房の

アムステルダムの入日の色、

かうして、アムステルダムのホテルの

アムステルダムの一夜。

江戸の昔の廣重の

江戸の明りが顔にさし、

ああ東京、横浜、

堺の街の妙国寺、

すべてが消える、武蔵野の

巴里の夢をもたらした

ふと、巴里の霧の中の

「君を思ふ」と巴里宛に。

夕の巴里を思ひ出でつれば。

巴里の街の少女等が

その巴里まで著いた月、

巴里の広場、街並木、

巴里の流行。

巴里の宿のまどろみに、

巴里の大路を行く君は

巴里の君へ逢ひに行く。

巴里より葉書の上に

巴里に著いた三日目に

巴里郊外

（一九一二年巴里にて）

巴里から来た三人の

巴里の上を一すぢに、

今日も巴里をすぢかひに、

（巴里モンマルトルにて）

巴里を越えて、

巴里の一夜

巴里の街に見る我れの

その下より巴里の新聞に包みたる

（一九一一年十一月十一日神戸にて）

渋谷にて

かかる時、たとへば渋谷の道玄坂の如く、

神田、日本橋、

神田、日本橋、

そして神田の四つ辻に、

ああ東京、横浜、

東京にて

ああ、東京の子供達は

わたしの自慢の東京と

東京の街の矮い屋根を越えて、

午前二時の上野の鐘が幽かに鳴る。

上野の鐘が鳴る。

上野の鐘が鳴る。

上野の鐘が鳴る。

上野の鐘が鳴る。

隅田川

隅田川、

隅田川、

隅田川、

隅田川、

隅田川、

隅田川。