巴里 大津 京都 東京

巴里にて

ひたすら良人に逢ひたいと云ふ望で張詰めた心が自分を巴里へ齎した。而して自分は妻としての愛情を滿足させたと

巴里の良人の許へ着いて、何と云ふ事なしに一ヶ月程を送

巴里の街を歩いて居ると、よく帽に金筋の入つた小學生に出會

なかつた。自分はそんな事を思ひ出しながら歩くので、巴里の文明に就いては良人が面白がつて居る半分の感興も未だ惹かない

・ブル※アルの「サダヤツコ」と云ふ名の店や、巴里の三越と云つてよい大きなマガザンのルウヴルの三階などに陳べられて居る

日本服を着て巴里の街を歩くと何處へ行つても見世物の樣に人の目が自分

一部の街で、踊場や珈琲店、酒場などの多い、巴里人の夜明し遊びをしに來る所と成つて居るのである。十二

モンマルトルと云ふのは、山の樣に高くなつた巴里の北の方にある一部の街で、踊場や珈琲店、酒場などの

がどれ丈日本の女をみすぼらしくして居るか知れない。大津繪の藤娘が被て居る市女笠の樣な物でも大分に女の

は青い腰掛が二つ置かれて居る。けれども自分を京都の下加茂邊りに住んで居る氣分にさせるのは、それは隣の

と云ふ事なしに一ヶ月程を送つて仕舞つた。東京に居た自分、殊に出立前三月程の間の忙しかつた自分に

。そんな處に近い※クトル・マツセ町の下宿住居が、東京にも見られない程靜かな清清した處だとは自分も來る