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武蔵野の中、

近江国にことならず。

宇治の河見るたかどのに、

大井川の時雨によいお客さんと屋形船に乗つて、

横浜なる防空本部のラヂオ

見て行く萩の上にあり、

「久住山の歌」の序詩

峰を連ぬる立山に

嵐山の紅葉は見られやしまへんえ。

岩木川流るるあたり、

北海道の方方に、

西の薩摩の城いくつ

伊豆の海のほとり、

伊豆の入江の烏賊船の、

富士山の上の霧氷、

（アムステルダムの一夜）

みちのくの、板柳町

浅間の山の裾野を歩いて居る。

あけがたの浅間のふもと、

琉球の団扇

ありがたう、琉球の友よ、

堺の街の角の家、

東京よりも寒しと云ふ巴里の正月は如何に。

巴里雑詠

巴里の宿の朝寝髪、

巴里の街の橡の葉は

（巴里は今日も薄曇り）

ああ巴里の大寺院ノオトル・ダアムよ、

その刹那、わが目に映る巴里の明るさ、

今夜巴里は泣いて居る。

宵の巴里を眺めけり。

巴里の街の下に見し、

千葉街道の電柱が

那覇の港の夜を思ひ、

下谷浅草本所の火。

忘れ草生ふ住吉の

東京のお客さんは皆さうお云ひやはる。

東京の二月の空は曇れども、

東京の正月の或日、

寒きかな、寒きかな、東京は

東京よりも寒しと云ふ巴里の正月は如何に。

東京の大通りを急ぎながら、

高架線から見る東京。

これが東京まで続いてゐよう、

東京の明かりならん。

恐らく、東京の我が家をも

小田原より東京へ

大東京の中央に

大東京を観ることよ。

銀座通を行くこころ。

銀座通りの夜店の

銀座であつたと、人の噂、

銀座の柳が溺れたあと、

有楽町の方を眺める人、

往きかへり、千曲の川の

都の中の神田にも、

下谷浅草本所の火。

阿佐ヶ谷の博士来たまひ、