牛込 本郷 横浜 横浜市 香川 東京 大手町 赤羽 駒込 神田

女と一しよに宿直住ひをさして貰つてゐる市内牛込の雑誌社に持ち帰つたことであつた。一九二八年の真夏、狂詩人が

予備校に通つてゐたが、神田で焼き出されて本郷の私の下宿に遁れて来た。火に迫られて下宿の家族と一しよ

はうにいらつしやるさうですね。僕、昨年から横浜に来てゐます。こゝへは用事で隔日おきにやつて来ます」

せず修一は懐中から名刺を一枚抜いて出した。横浜市××町二ノ八、横浜メーター計量株式会社、としるしてある名刺を見詰めて

「僕、香川です。四月からＷ大学に来てゐます。前々からお訪ねしようと思つ

「香川……あ、叉可衛さんでしたか。ほんとによく私を覚えてゐ

私はすつかり魂消てしまつた。香川は私の初恋の娘雪子の姉の子供であつた。私は大急ぎで自分

。私は大急ぎで自分の室を片附け、手足を洗つて香川を招じ上げた。そして近くの西洋料理店から一品料理など誂へ、ビールを

、口尻のしまつた円顔やに雪子の面影を見出して、香川を可愛ゆく思ひ、また夢見るやうな儚い心地で、私は遠い過去の果しない

足掛け六年の後、雪子の甥の香川を眼の前に置いて、やはり思はれるものは、若し雪子と結婚して

に私は自分の表情にへばりつく羞恥の感情に訶まれて香川を見てはゐられなかつた。

香川は字村の人事など問はるゝまゝに話した。六年の間に自殺者

微笑させた。雪子に思ひを寄せてゐたころ幼い香川が家に遊びに来るたび、私は叉可衛さん／＼と言つて菓子

、時に疎ましい探るやうな目付を彼に向けた。恐らく香川は彼の叔母と私との不運な恋愛事件については何も知つ

といふ広告を読み、私は天来の福音と思つて早速東京へ送金した。ところが、日ならず届いた小包が運わるく舎監室

毎朝サーベルの音をガチヤンと鳴らして植込みの飛石の上から東京弁で、「行つて参ります」と活溌な声をかけると、亭主は

私は余所の女と駈落して漂浪の旅に出、東京に辿りついてさま／″＼の難儀をしたすゑ、当時文運の所産に

大手町で電車を降り、停留場前のバラック仮建築の内務省の門衛に訊き、

を嫌ひ、それに私自身も貧乏だつたので、宥めすかして赤羽から国へ発たせたが、汽車の屋根に腹伏せになつて帰つた

た。火に迫られて下宿の家族と一しよに私が駒込西ヶ原へ避難する時、修一は私の重い柳行李を肩に舁いでくれ

、新聞配達をしつゝ予備校に通つてゐたが、神田で焼き出されて本郷の私の下宿に遁れて来た。火に迫ら