志賀 松島 愛宕 叡山 加茂 逢坂 秩父 唐招提寺 太秦 高麗 蝦夷 小松原 堀川 奈良 大宮

つて東山の麓を越して向うへ。逢坂の山。志賀の海。それから向うはずつと長い長い旅路が限なく續いて行つてゐる

だ……などとも書いてある。窕子は父親をその松島の中に置いて、いろいろに想像して見たりなどした。

か。何うして小さな野の花に眼をつけたり、愛宕の山の上に白くふわふわと靡いてゐる一片の雲に心を惹かれ

は、いつもの佛の話とは違つて、自分が叡山に登つて修行した時のことや、奈良の唐招提寺に律を研究

の土手の日あたりに薄や萱がガサコサと靡いたり、加茂の霜月の祭の競馬に棧敷が出來て、きさいの宮が美しい出し車の

ずつと河原を通つて東山の麓を越して向うへ。逢坂の山。志賀の海。それから向うはずつと長い長い旅路が限なく續い

た。ところが、何でも武藏野の奧、それもずうつと秩父の方に寄つたところに用事があつて、そこに行く途中、日が暮れ

昔からずつと百姓として住んでゐる人だちだつた。秩父の方には大きな深い山があつて、その向うに町などがあるなどと

が叡山に登つて修行した時のことや、奈良の唐招提寺に律を研究に一年ほど行つてゐた時の話などをかれはそこ

にした。それから窕子はまた一しきり話に耽つて、太秦の蜂岡寺の丑の刻の鐘が風雨の中にきこえる頃まで起きてゐ

たり話したりした。そこらに住んでゐるものは、高麗から移住して來たものでなければ、昔からずつと百姓として住んで

聞いたが、そつちには行つたことはなかつた。高麗から移住して來た人達の方が、農事にも巧みに、文化も

女の眼には、その父親が遠く遠く薄を分けて蝦夷の地近くまで入つて行くさまがはつきりと見えた。武隈の二木松など

京のひとりの少女子に憑いて、紫野の向うの北野の小松原の中に住みたいといふ託宣があつたので、それが大宮の奧を

の指さす方向に眼を移しながら、『殿が……あの堀川の殿が……。それはまことか……いつ？　もうさつきにか？

ないでせう。堀川の殿が此處に！　あの堀川の殿が。京の姫達でさうした好運に附かれたのは御身

堀川の殿は驚いたやうにしてそつちを見たが、笑つて、

たことが賓行されて、その西の對屋から堀川の邸近くのとある家に移轉して行つたりなどした。その新しい家に

母者や姉妹とも逢はうね。そしてその次手に、昔の奈良の都にも行つて見ようではないか！』

ゐた時の話などをかれはそこに持ち出した。『奈良の寺は方則がきびしいので一番つらうございました。朝は寅

、自分が叡山に登つて修行した時のことや、奈良の唐招提寺に律を研究に一年ほど行つてゐた時の話

をり思ひ起した。そしてそれを眞直に北に行くと、大宮の築土に突當つて、そこには大きな門があつて、直垂姿や

中に住みたいといふ託宣があつたので、それが大宮の奧をも動かして、その年の秋に取敢へず小さやかな宮