富士山 赤城 大菩薩峠 江戸 浅間 金沢 長崎 甲府 浅草 東京 新宿

だ。麓にあえいでいるのが存八で、娘は富士山のようだった。存八はそう思った。

特にこの赤城の山中は法神流の発祥地だ。この流派は元は富樫白生流と称する

中里介山の大菩薩峠にもとり入れられているが、青梅の七兵衛は実在の人物だ。レッキとし

ことごとく秘法の伝授をうけてその後継者に指名された。江戸にでて道場をひらいたが、あまり強すぎたために諸道場の嫉みを

生動とはこの物でなければならないものだ。富岳も浅間も山気生動し雲をひらく如くであるが、真に山気の生動し真に

法神は元来金沢の人であるが、諸国の山野を跋渉して妙剣を自得し、

苦業鍛錬のあげく鬼神の霊動を会得され、また長崎に於てオランダ医学を学び人体の秘奥をさぐってこれを剣の理法に

さを脱けだすことができないのだ。流祖法神大先生が長崎に下ってオランダ医学を究められたのはこの理に当るもので、正

もある。非常に足が早い。一夜に山越えして遠く甲府で盗みを働き、夜明け前に家へ戻ってねているから、この旦那

ために諸道場の嫉みをうけて帰国し、帰国後も江戸浅草に道場をひらく神道一心流の剣客山崎孫七郎とその門弟三十余名につけねらわ

朝之助は青年のころ東京にでて諸流を学び、遊学中に父を失って帰国した。

が力強くよみがえってくる。まさかこの山奥からポッと出の田舎教師が東京の郵便局を襲ったとは思いつく者があるまい。むろん郵便局のヒキダシにも

待たせた自動車に乗りこみ、円タクから円タクへ乗りつぎして、新宿へきて映画館へはいる。この映画館には内側から完全にカギのきく便所