箱根熱海バス紀行 / 寺田寅彦
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東京駅発の電車は思いの外あまり込まなかった。横浜で下りた子供連れの客はたいてい博覧会行きらしかった。大船近くの土堤の桜
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熱海はもう桜もあるまいからいっそ箱根の方がいいだろうということになった。箱根は二十年も昔水産関係
からいっそ箱根の方がいいだろうということになった。箱根は二十年も昔水産関係の用向きで小田原へ行ったついでに半日の暇を
今日は朝の九時半頃家を出て箱根で昼飯を食って二時には熱海へ来た。そうして熱海ホテルで
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はほとんど馴染のない土地である。それで今度は未見の箱根町まで行って湖畔で昼飯でも食って来ようということになった。自分達
達と警官の扱いでようやくこの時ならぬ関所を通り抜けて箱根町に入った。
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いうものの大きさがぼんやり分かるようであり、左を見下ろすと箱根山の高さのおおよその概念が確定するような気がする。女車掌が蟋蟀のよう
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がこの道路の一つの特徴であろう。右を見ると伊豆の国というものの大きさがぼんやり分かるようであり、左を見下ろすと箱根山の高さ
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去年見た新解釈「金色夜叉」の芝居で柳永二郎の富山がお宮の母と貫一の絶縁条件を値踏みしなが「二万円も
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あたりからはぽつぽつ桜が見え出した。山桜もあるが、東京辺のとは少し違った種類の桜もあるらしい。関東地震や北伊豆
なかったようなことなどを夢のように覚えている。東京から遥々見送って来た安兵衛という男が、宿屋で毎日朝から酒ばかり
軽便鉄道に変っていたが、それでもまだやはり朝東京を出て夕方熱海へ着く勘定であったように思う。去年はじめて省線電車
違った東京のように見えた。われわれの「まだ知らない東京」は無限に多数にあるらしい。(昭和十年六月『短歌研究』
、それだけのちがいで東京がいつもの東京と少し違った東京のように見えた。われわれの「まだ知らない東京」は無限に多数に
拾って帰ったが、それだけのちがいで東京がいつもの東京と少し違った東京のように見えた。われわれの「まだ知らない東京」
そこから車を拾って帰ったが、それだけのちがいで東京がいつもの東京と少し違った東京のように見えた。われわれの「まだ
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たような気がして帰って来たが、東京駅から駒込までの馴れた道筋はその割に存外遠いような気もした。