写生紀行 / 寺田寅彦
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云つて笑はして居た。「學校は何處……小石川?、○○? △△?……」などゝ女學校の名前らしいもの
た答を與へないで唯笑つて居た。どうして小石川といふ見當をつけたかゞ私には不思議に思はれた。それぞれのエキスパート
居るかと思はれた。さう云はれると成程何となく小石川らしくも思はれない事はなかつた。
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玉川の磧では工兵が架橋演習をやつて居た。あまりきらきらする河原には
坂道があつた。登りつめると綺麗な芝を植ゑた斜面から玉川沿の平野一面を見晴す事が出來た。併し其れよりも私の眼を
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た妙な屋臺作りに活人形が並べてあつた。鞍馬山で牛若丸が天狗と劒術をやつて居るのがあつた。其の人形の色彩から
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す必要などはないやうに思はれる。しかしどうも此の東京の街頭に畫架を据ゑて、往來の人を無視してゆつくり落着い
何處かの人」であつたのである。此分なら東京の町中でもどうやら寫生が出來さうな氣もした。
に此の繪具箱をぶら下げて歩いて居る自分が如何にも東京ののらくら者に見えるので心細かつた。とう/\鐵道線路の傍
をさらつて居る音も聞こえた。かうして我大東京はだらしなく無設計に横に擴がつて、美しい武藏野を何處迄もと蠶食
想ふに「場末の新開町」といふ言葉は今の東京市の殆んど全部に當嵌まる言葉である。
月二日、水曜。澁谷から玉川電車に乘つた。東京の市街が何處迄も/\續いて居るのにいつもながら驚かされた
世田ヶ谷といふ處が何處かしら東京附近にあるといふ事だけ知つて、それがどの方面だかは今日
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迄行つた。省線で田端迄行く間にも、田端で大宮行の汽車を待つて居る間にも、眼に觸れる凡てのものが
て見ようかといふ話をした事を思ひ出して、兎に角大宮迄行つて見る事にした。繪具箱へスケッチ板を一枚入れて
した。此間M君と會つた時、いつか一緒に大宮へでも行つて見ようかといふ話をした事を思ひ出して、兎に角
大宮驛で下りて公園迄ぶら/\歩いた。驛前の町には「
小さな聲で云つて居るのであつたが流石に昨日の大宮の車夫とはちがつて、畫の中の物體を指摘したりしない
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で巣鴨迄行つた。省線で田端迄行く間にも、田端で大宮行の汽車を待つて居る間にも、眼に觸れる凡ての
たのを抱へて市内電車で巣鴨迄行つた。省線で田端迄行く間にも、田端で大宮行の汽車を待つて居る間にも
停車場迄來ると汽車はいま出た計りで、次の田端停り迄は一時間も待たなければならなかつた。構外のWCへ行つ
田端へ着くともういよ/\日が入りかけた。夕陽に染められた構内は
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とを風呂敷で包み隱したのを抱へて市内電車で巣鴨迄行つた。省線で田端迄行く間にも、田端で大宮行の汽車
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「赤羽で今電氣を焚くところをこさへて居るが、其れが出來るとはや
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十月十八日、火曜。午後に子供を一人つれて、日暮里の新開町を通つて町はづれに出た。戰爭の爲に出來
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十一月十日、水曜。池袋から乘換へて東上線の成増驛迄行つた。途中の景色が私には非常