松江印象記 / 芥川竜之介
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樹の養成とである。自分はこの点において、松江市は他のいずれの都市よりもすぐれた便宜を持っていはしないかと
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全国の都市の多くはことごとくその発達の規範を東京ないし大阪に求めている。しかし東京ないし大阪のごとくになるということは、必ずしも
発達の規範を東京ないし大阪に求めている。しかし東京ないし大阪のごとくになるということは、必ずしもこれらの都市が踏んだと同一
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松江印象記
は事新しくここに書きたてるまでもない。これらの木橋を有する松江に比して、朱塗りの神橋に隣るべく、醜悪なる鉄のつり橋を架けた
自分をしていよいよ深くこれらの橋梁を愛せしめた。松江へ着いた日の薄暮雨にぬれて光る大橋の擬宝珠を、灰色を帯び
ある。自分はこの間にあって愛すべき木造の橋梁を松江のあらゆる川の上に見いだしえたことをうれしく思う。ことにその橋の二
の木造の橋とであった。河流の多い都市はひとり松江のみではない。しかし、そういう都市の水は、自分の知っている
松江へ来て、まず自分の心をひいたものは、この市を縦横に
一つにこの千鳥城の天主閣を数えうることを、松江の人々のために心から祝したいと思う。そうして蘆と藺と
しかし、松江の市が自分に与えたものは満足ばかりではない。自分は天主閣
強い愛惜を自分の心に喚起してくれるのである。松江の川についてはまた、この稿を次ぐ機会を待って語ろうと思う
自分は松江に対して同情と反感と二つながら感じている。ただ、幸いにしてこの
からである。このゆえに自分はひとり天主閣にとどまらず松江の市内に散在する多くの神社と梵刹とを愛するとともに(こと
かを語っている。そして最後に建築物に関しても、松江はその窓と壁と露台とをより美しくながめしむべき大いなる天恵――ヴェネティア
。堀割に沿うて造られた街衢の井然たることは、松江へはいるとともにまず自分を驚かしたものの一つである。しかも処々
となく LIFELIKE な湖水の水に変わるまで、水は松江を縦横に貫流して、その光と影との限りない調和を示しながら、
松江はほとんど、海を除いて「あらゆる水」を持っている。椿が濃い
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して達しうるのが後進たる小都市の特権である。東京市民が現に腐心しつつあるものは、しばしば外国の旅客に嗤笑せらるる小人
ことごとくその発達の規範を東京ないし大阪に求めている。しかし東京ないし大阪のごとくになるということは、必ずしもこれらの都市が踏ん
全国の都市の多くはことごとくその発達の規範を東京ないし大阪に求めている。しかし東京ないし大阪のごとくになるということは
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神社と梵刹とを愛するとともに(ことに月照寺における松平家の廟所と
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ことに月照寺における松平家の廟所と天倫寺の禅院とは最も自分の興味をひいたものであった
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橋梁に次いで、自分の心をとらえたものは千鳥城の天主閣であった。
自分はその一つにこの千鳥城の天主閣を数えうることを、松江の人々のために心から祝したい
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自分はさらに同じような非難を嫁が島の防波工事にも加えることを禁じえない。
波浪の害を防いで嫁が島の風趣を保存せしめるためであるとすれば、かくのごとき無細工な石がきの築造は、
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自分は、不忍池を埋めて家屋を建築しようという論者をさえ生んだわらうべき時代思想を考えると、
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朱塗りの神橋に隣るべく、醜悪なる鉄のつり橋を架けた日光町民の愚は、誠にわらうべきものがある。