本郷 丸の内 精養軒 磐梯山 四国 京都 長野 東京 上野 銀座 京橋

のに忍びなかった。そこで彼は夕日の中を、本郷とは全く反対な方向へ、好い加減にぶらぶら歩き出した。賑かな往来は

俊助下宿は本郷森川町でも、比較的閑静な一区劃にあった。それも京橋辺の酒屋の隠居所を、ある伝手から二階だけ貸して貰ったので、

中央停車場の外へ出て、丸の内の大きな星月夜を仰いだ時も、俊助はまださっきの不思議な心もちから、全く

んです。おまけに僕の行く用向きと云うのが、あの精養軒の音楽会の切符の御金を貰いに行くんですからね。」

ございますよ。何でも今月の末までには、また磐梯山が破裂するそうで、――昨晩もその御相談に、神々が上野へ御

「つまり磐梯山の爆発も、クレマンソオへ出した辞職届も、女たらしの大学生も、皆その白味の

を、聞かせられる機会が多かった。野村家と云えば四国の南部では、有名な旧家の一つだと云う事、彼の父が

御存知なかったわね。――辰子さんと申しますの。京都の女学校を卒業なすった方。この頃やっと東京詞が話せるようになり

「これは長野のある資産家の御嬢さんですが、何でも縁談が調わなかったので

の。京都の女学校を卒業なすった方。この頃やっと東京詞が話せるようになりました。」

それは春先の東京に珍しくない、埃風の吹く午後だった。俊助は大学から銀座の八咫屋

俊助は同じ東京の高等学校で机を並べていた関係から、何かにつけて野村一家

するとその後また一週間と経たない内に、俊助は上野行の電車の中で、偶然辰子と顔を合せた。

するそうで、――昨晩もその御相談に、神々が上野へ御集りになったようでございました。」

初子と辰子とを載せた上野行の電車は、半面に春の夕日を帯びて、静に停留場から動き

に珍しくない、埃風の吹く午後だった。俊助は大学から銀座の八咫屋へ額縁の註文に廻った帰りで、尾張町の角から電車へ

に、往来が一面に灰色になる。と思うとまた、銀座通りの町並が、その灰色の中から浮き上って、崩れるように後へ流れ

森川町でも、比較的閑静な一区劃にあった。それも京橋辺の酒屋の隠居所を、ある伝手から二階だけ貸して貰ったの