奉教人の死 / 芥川竜之介
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長崎
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去んぬる頃、日本長崎の「さんた・るちや」と申す「えけれしや」(寺院)
ゆらぐ日輪が、うなだれて歩む「ろおれんぞ」の頭のかなた、長崎の西の空に沈まうず景色であつたに由つて、あの少年の
事も、度々ござるげに聞き及んだ。いや、嘗つては、長崎の町にはびこつた、恐しい熱病にとりつかれて、七日七夜の間
もよらぬ大変が起つたと申すは、一夜の中に長崎の町の半ばを焼き払つた、あの大火事のあつた事ぢや。まことに
予が所蔵に関る、長崎耶蘇会出版の一書、題して「れげんだ・おうれあ」
ならんか。但、記事中の大火なるものは、「長崎港草」以下諸書に徴するも、その有無をすら明にせざるを以
」下巻第二章に依るものにして、恐らくは当時長崎の一西教寺院に起りし、事実の忠実なる記録ならんか。但、