犬と笛 / 芥川竜之介
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欲しいものがあるのなら、遠慮なく言うが好い。己は葛城山の手一つの神だ。」と言いました。
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「わん、わん、御姉様の御姫様は、生駒山の洞穴に住んでいる食蜃人の虜になっています。」と答えました
「飛べ。飛べ。生駒山の洞穴に住んでいる食蜃人の所へ飛んで行け。」
は空へ舞い上って、青雲の向うにかくれている、遠い生駒山の峰の方へ、真一文字に飛び始めました。
やがて髪長彦が生駒山へ来て見ますと、成程山の中程に大きな洞穴が一つあって、その中
忘れません。私は食蜃人にいじめられていた、生駒山の駒姫です。」と、やさしい声で云いました。
殿様、私はあなた方に御別れ申してから、すぐに生駒山と笠置山とへ飛んで行って、この通り御二方の御姫様を御助け
すると生駒山の峰の方から、さっと風が吹いて来たと思いますと、その風
「髪長彦さん。髪長彦さん。私は生駒山の駒姫です。」と、やさしい囁きが聞えました。
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昔、大和の国葛城山の麓に、髪長彦という若い木樵が住んでいました。これは顔かたちが
ような不思議な犬をくれてやろう。こう言う己は、葛城山の足一つの神だ。」と言って、一声高く口笛を鳴らしますと、
「己は葛城山の目一つの神だ、兄きたちがお前に礼をしたそうだから、
のことです。髪長彦は三匹の犬をつれて、葛城山の麓にある、路が三叉になった往来へ、笛を吹きながら来かかります
「私はこの国の葛城山の麓に住んでいる、髪長彦と申すものでございますが、御二方の
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「今度飛鳥の大臣様の御姫様が御二方、どうやら鬼神のたぐいにでもさらわ
て、黒犬の背に跨がりながら、笠置山の頂から、飛鳥の大臣様の御出になる都の方へまっすぐに、空を飛んでまいり
「飛べ。飛べ。飛鳥の大臣様のいらっしゃる、都の方へ飛んで行け。」と、声を揃え
、白と斑と二匹の犬を小脇にかかえて、飛鳥の大臣様の御館へ、空から舞い下って来た時には、あの二人の
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「わん、わん、御妹様の御姫様は笠置山の洞穴に棲んでいる土蜘蛛の虜になっています。」と、主人の
「飛べ。飛べ。笠置山の洞穴に住んでいる土蜘蛛の所へ飛んで行け。」と云いますと、
空へ飛び上って、これも青雲のたなびく中に聳えている笠置山へ矢よりも早く駈け始めました。
さて笠置山へ着きますと、ここにいる土蜘蛛はいたって悪知慧のあるやつでしたから、
は忘れません。私は土蜘蛛にいじめられていた、笠置山の笠姫です。」とやさしい声が聞えました。
匹の犬とをひきつれて、黒犬の背に跨がりながら、笠置山の頂から、飛鳥の大臣様の御出になる都の方へまっすぐに、
私はあなた方に御別れ申してから、すぐに生駒山と笠置山とへ飛んで行って、この通り御二方の御姫様を御助け申して
それと同時にまた笠置山の方からも、さっと風が渡るや否や、やはりその風の中に
「髪長彦さん。髪長彦さん。私は笠置山の笠姫です。」と、これもやさしく囁きました。