江戸城 富士見町 明石 千葉 江戸川区 小岩 向島 東京

も知れぬが露伴にはかえって勿体なし。露伴の父は江戸城のお茶坊主、あまり立派な家系にてはなきも、ぱっと花が咲くように

使わぬから秀れた情痴小説が書けぬので、自分は富士見町に待合を歌女に出させた折り、素人客の連れ込みが来ると、隣室から

従来のぼろ蒲団を屑屋に千円で売り、あの蒲団は明石に疎開中八百円にて買いしもの、差引二百円儲かりしと先生ほくほく欣びおれ

八月二十日。養子廃嫡の件につき千葉裁判所より召喚状ありたり。巡査三名来って本泥棒の犯人を明日取調べる

九月廿日。利根川決壊のため江戸川区洪水。先生珍らしく朝早く起き、ビール瓶のなかに米をいれて搗きおれり

ば先生無言。Ｇ・Ｉが遊びに来なくなりしゆえ小岩のパレスにも行く気がせぬと先生申さる。アナトール・フランスの「わが友

九月廿一日。先生わざわざ小岩まで洪水見物に赴かる。小説家は弥次馬根性を出し何でも見なければ

何でも見なければならぬと申され、明治四十三年向島大洪水の話を聞く。

九月廿五日。洪水のため東京と連絡切れたり。従って郵便もなく来客もなし。先生せいせいすると