大菩薩峠 09 女子と小人の巻 / 中里介山
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ようやくにして長者町の奉公先へ帰った友造は、御主人の居間へ行って見ましたが
不思議に思いながら長者町へ帰って来て、主人忠作の家へ来るには来たが、厭な
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多くは前の通りで、新たに加わったお君が「道成寺」を出すということが人気でありました。
は綺麗な女の子、女軽業の中でお君といって道成寺を踊る評判者、それがやはり役割と同じこと、死んだようになって倒れ
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の連中を引っ担いで来た折助どもは、闇に紛れて荒川の土手、葭や篠の生えたところまで来てしまいました。
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伊勢から帰った後の道庵先生は別に変ったこともなく、道庵流
「お医者さん? 伊勢のお医者さんかえ」
のすることを、する通りに受けてしまうんだが、伊勢の拝田村にいた時はそれでいいけれど、江戸というところはそれで
ないのも無理はない、こちらではよく覚えている。伊勢の古市の備前屋でお前の面を見て、よく覚えている。珍らしいところ
「まあ左様でございましたか、伊勢の古市で……」
がどうも尋常の犬でないと思ったら、いつぞや伊勢の古市の町で、槍をよく使う小さな人、あまりに不思議の働き故、
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兵馬は番町の伯父の家にいる時、伯父から手ほどきの定石を習い始め、余技とは
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では小仏峠の二軒茶屋の裏の林の中と、府中のお六所様の森の後ろと日野の渡し場に近いところ。まあこの絵図面
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青梅宿の坂下、江戸街道の丸山台、表の方では小仏峠の二軒茶屋の裏の林の中と、府中のお六所様の森の後ろと日野
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「与八、お前が来たから今日は、おれも久しぶりで江戸見物をやる、どうだ、両国へでも行ってみようか」
があれだ。向うは上総の国で、こっちが武蔵の江戸だから、昔し両国橋と言ったものだが、今はあっちもこっちも
そうだよ、わたしにだけ内密に言ってくれたの。江戸に居悪ければ旅へ出た時に、まだ仕事はいくらでもあるから、
、伊勢の拝田村にいた時はそれでいいけれど、江戸というところはそれでは通らないことがあるんだから」
身にしたって、あんな約束ではなかったのだけれど、江戸へ来てみると、直ぐに真黒く塗られたのは、この通り洗えば落ちる
、人の懐中物を奪おうとするような性質のわるい女が江戸の市中に徘徊しているかと思えば、それが憤慨に堪えないの
から町内を食って歩くだけのことらしいのです。それに江戸名物の弥次馬が面白がってくっついて飛び出す。出ないと幅が利かなくなったり
「なるほど、ともかく江戸から出て来たものに違いはなかろう、見物して参ろう、跟いて来い
「それじゃ何かい、どうしても江戸へ出かけるのかい」
「兄貴、いろいろとお世話になったが、江戸へ出て一旗揚げるつもりだ。がんりきもここらが年貢の納め時だから、
、お前も腕一本取られたのがあきらめ時だ、江戸へ落着いたら、そんなことで畳の上の往生を専一に心がけてくんねえ。
「一文なしだ、江戸へ出る小遣もねえくらいのものだ」
渡し場に近いところ。まあこの絵図面を見ておくがいい、江戸から持って来た金は裏の方へ蔵っておく、甲州で稼いだの
から、やっぱり表を突っ切ってやろう、今から出りゃ夜明けまでに江戸へ入るのは楽なものだ。そのつもりで、さっき、握飯を三つ四
三つ四つ拵えてもらってあるから、あれを噛って江戸まで行けば、それから先はお膝元だ。どっちへころげるかがんりきの運試し、兄貴
「江戸へ行って居所が知れたら、神田の明神様へ額を納めておいてくれ
なってしまって、またも旅廻りをしているか、江戸へ帰ったか、それさえ消息がないということで、お君は落胆し
お君は、仕方がないから、わたしはムクを連れて江戸へ帰ってみようと言い出しましたけれど、それはずいぶん危険なことと言わね
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「甲州とやらへ」
「甲州へ?」
、いかにもこまっちゃくれているが、よく見るとそれは甲州の山の中で金を探していた忠作でした。
から持って来た金は裏の方へ蔵っておく、甲州で稼いだのは表の方へ預けておくんだ、幾らになっている
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この連中が、昌平橋のところへ来て、町角へ大釜を据えました。誰がどこから持って
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「それはいま言う裏街道では大菩薩峠の上、青梅宿の坂下、江戸街道の丸山台、表の方では小仏峠の
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ら今日は、おれも久しぶりで江戸見物をやる、どうだ、両国へでも行ってみようか」
その翌日、道庵は与八をつれて両国へ出かけました。与八の背には郁太郎が温和しく眠っています。
道庵先生は両国へ行く途中も、例の道庵流を発揮して通りがかりの人を笑わせました。
「あそこが両国だ、大きな川があるだろう、間を流るる隅田川というのがあれだ。向うは上
こうして二人は両国の人混みへ入り込んで行きました。
融通してもらいたいと言って来たがどうだろう、借主は両国で景気のいい見世物師だという話だが、証人が確かだから……」
「ええ、両国に出ていたのが今度、旅を打って廻ろうというのに、仕込みや何かで金がか
るところがあるから、夕飯が済んだら出かけましょう。両国はなんと言いましたかね」
この軽業の一行は両国に出ていた一行。米友を黒ん坊に仕立てた一座。女の軽業足芸の類は多くは
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「それでは、あの下谷の長者町にいらっしゃるという先生かい」
た米友は、どこをどうブラブラ歩いて来たか、やがて下谷の山崎町の太郎稲荷のところまで来てしまいました。そこへ来ると、
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た兵馬と七兵衛とがんりきと三人は、早くも甲府に着きました。
甲府の南の郊外にある一蓮寺というのは遊行念仏の道場で聞えた
「むむ、まったく困りものだ、甲府勝手へ廻されたのを自暴で、ああしておいでなさるんだから
宇津木兵馬が単身で、白根の山ふところを指して甲府の宿を出かけたのは、一蓮寺のあの騒ぎの翌日のことであり
だって旦那、わっしがこの村へちっとばかり用事があって甲府から出かけて来ると、そこの森の中から、のそりと飛び出して来やがっ
が入ったぞ、俺もこの通り傷を負ったが、甲府から来た金助は殺された、お堂の本尊様も明神の御宝蔵
それから兵馬は、甲府へ沙汰してお君をもとの軽業の一座へ送り返そうとしているうち
しまい、お君はやっと愁眉を開いていると、そこへ甲府から便りがありました。その便りはまたも兵馬とお君の二人を
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「新宿の八丁目から、わざわざ黒ん坊を見に来たんだい」
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神田の柳原河岸を通りかかったのは、今で言えば夜の八時頃でし
神田と浅草の方面をあてもなく歩き廻っていたが、当のないこと
「江戸へ行って居所が知れたら、神田の明神様へ額を納めておいてくれ、めの字を書いた絵馬
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神田と浅草の方面をあてもなく歩き廻っていたが、当のないことはどこ
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上総の国で、こっちが武蔵の江戸だから、昔し両国橋と言ったものだが、今はあっちもこっちもお江戸のうちだ。
ましたよ。そうして今晩も泊るところがなければ、両国橋を渡ると向うに知合いの宿屋があるから、そこへ行って親方の名
二人は両国橋を渡ります。夜風が吹いて川を渡るのに、見世物場では賑やか
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「あそこが両国だ、大きな川があるだろう、間を流るる隅田川というのがあれだ。向うは上総の国で、こっちが武蔵の江戸