大菩薩峠 10 市中騒動の巻 / 中里介山

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地名一覧

長者町

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長者町の先生の家へ、町内の遊び人がやって来て、

へ繰込んだものがありました。それは別人ならず、長者町の道庵先生でありました。

「おや、これは長者町の先生、おいでなさいまし。実はこういうわけなんで……」

歩兵さんのお聞き違いだろう。時に歩兵さん、わたしはこの長者町に住んでいる道庵といって、長者町ではかなり面の古い男でござい

わたしはこの長者町に住んでいる道庵といって、長者町ではかなり面の古い男でございますから、どうか私にお任せなすって

「詰らなく嫉かれるのも嫌だから言ってしまおう、長者町の道庵という剽軽なお医者さんへ預けることにしてしまったんだ

「長者町の道庵さん?」

か。そうして店へ入る時に言ったのは、長者町の道庵という剽軽な医者へ預けることにしたという言葉。

その翌日、お絹は十二分の好奇心を以て長者町の道庵先生を訪れました。

手紙を取次いだからお絹はそれを取って見ると、長者町の道庵先生からであります。

伊勢

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「何だ、お前は俺らが伊勢の国から出て来たことを知ってるのかい」

「知っていますとも、伊勢の国で宇治山田の米友さんというのはお前さんだろう」

番町

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お年若のようでもあるし、両刀の身分、且は番町片柳殿の家中と申されるからには拙者にも多少の思い当りがござる

甲府城

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兵馬は実に不審に堪えませんでした。だいそれた甲府城内の御金蔵破り、いま眼のあたり見れば、それはドチラも自分の知っ

薩摩

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「太え野郎だ、どうも眼つきがおかしいから、あんな奴が薩摩の廻し者なんだろう」

府中

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「それから親方、府中でお目にかかった時は、お前さんはたしか、百蔵さんとおっしゃいました

対馬国

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でございますからお聞き下さいまし、文武天皇即位の五年、対馬国より金を貢す、よって年号を大宝と改むということを国史略を

本所

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さても本所の鐘撞堂の相模屋という夜鷹宿へ、やっと落着いた米友は、お君から

これが不思議な縁で米友は、その翌日から本所の相生町の箱屋惣兵衛一家の留守番になってしまいました。それで鐘撞堂の

して見ると、この界隈の物騒なことは、神田や本所のそれ以上でありました。越後屋は大きな蕎麦屋で、奥座敷などがいくつもある

とは、どっちが先ということなしに両国橋を、本所の方へ向いて渡りながら身の上話。

久留米藩

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に外出はできないこと、附近に薩州を初め内藤家、久留米藩などの大きな屋敷があって、ことに隣りの薩州家などは浪人者がたくさん

根岸

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その時分、根岸に住んでいたお絹が、今日は小女を連れて、どこの奥様か

根岸の住居へ帰ってからお絹は、異様の嫉ましさで悩まされました。

「いくら淋しい根岸でも近所がありますから、あたりまえの声で話をして下さいよ。お前

嗾しかけました。その上、右の後家さんというのは根岸に住んでいて、先日お前さんの前へワザと古証文を突きつけたりなんぞし

ならなくなりました。その隙を見てがんりきが根岸のお絹の住居へ駈けつけて見ると戸が閉っていました。

相生町

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これが不思議な縁で米友は、その翌日から本所の相生町の箱屋惣兵衛一家の留守番になってしまいました。それで鐘撞堂の相模屋から

橋の真中から相生町の方へ歩き出すと、

江戸

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方にしてからが解せぬことであります。百蔵も江戸へ出て小商いでもして堅気になると言い、七兵衛もそれを賛成し

この勢いで貧窮組は江戸の市中へ蔓延して、ついには貧窮組へ入らなければ人間でないよう

「天誅」の文字が江戸の市中にも流行り出して来て、市民を戦慄させたのはそれ

た。駿河の清水港で別れてから、船と共に江戸へ着いたお松。船頭が徳島藩の出入りでここへ世話をされて

ところで、みんなこのお江戸で育った人たちですよ、江戸に生れた人で権現様のおかげを蒙らぬ人はござんすまい、その権現様

は、ずいぶん忠義を尽す人も多かったのに、今は江戸からお手紙を差上げる人もない御様子、それをお前が、自分から御奉公

か知らないが、現に君ちゃんはここにいないで、江戸へ帰るより甲府がいいと言って残っているから、文句がないじゃないか

佐久間町

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たり売らなかったりして、夜遅くまで市中を歩いて佐久間町の裏長屋へ帰ります。今宵は浅草方面から売り歩いて両国橋手前まで来ると、

通りお借り申しました。甲府から帰って参りますと、佐久間町の方へお返しに上ったんですけれど、お家が壊れておいでなすって

甲州

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まあそれからお聴き下さいまし……御存じでもございましょうが甲州は金の出るところなんでございます。金の出るのは国が上国だ

これは甲州の、徳間入の川の中以来の会見であって、田舎者らしい男は七兵衛

に来たことのある女である。そうだそうだ、甲州へ旅興行に出る仕込みのためといって、五十両の融通を人を中に

迎えに来たんですよ、お前さんの伯父さんがいま甲州の方から帰って、お前さんを連れて帰りたいというから、わたしが道

「軽業の娘たちはみんな甲州から帰ったのかね、一人残らず帰って来たのかね」

ところへ出入りするようになって、その後家さんが近いうち甲州へ出かけるに就いて、百蔵もその跡を追って甲州へ行くから気をつけ

うち甲州へ出かけるに就いて、百蔵もその跡を追って甲州へ行くから気をつけなければならないと、七兵衛はお角を嗾しかけました

いうのはすなわち宇治山田の米友であります。お君が甲州へひとり残されたことの真相を、七兵衛を通してお角から聞いてもらっ

わかって米友は、お君のことが心配になってはるばる甲州まで行ってみる気になりました。

昌平橋

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の貧窮組ではないから二度まで盛り返して来ず、昌平橋へ行ってお粥を食っています。貧窮組はこのくらい、無邪気といえ

両国

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た米友は、お君から何かの便りがあるかと思って、前に両国の見世物を追い出された晩、お君と二人で宿を取った木賃宿へ行って様子を

「親方、おかげさまで全く助かりました、近いうち両国でまた一旗揚げる都合ですから、どうぞ御贔屓を頼みます」

いつはいいところへ気がついた。あの女のいるところは両国の小屋ですぐわかるだろう、これから行って、罪なようだが狂言を書いてみ

山田の米友はこの頃、お君の身の上を心配しています。両国の木賃宿で別れてから時々便りのあるはずなのが更にありません。自分は程

わけで米友は、両国の見世物小屋を追い出されてから、両国の近辺へは立廻れないわけなのですが、こっそりと出入りをして、もしお君

ああいうわけで米友は、両国の見世物小屋を追い出されてから、両国の近辺へは立廻れないわけなのです

「跛足だって槍は使えるんだよ。ほらこのあいだ両国へ来た印度人の黒ん坊をごらん、あの黒ん坊も跛足だろう、それでも槍を使

附近へ近寄ろうものなら、どんな目に遭うか知れない。両国広小路は米友にとって鬼門であるけれど、今はその危険を冒しても米友はそ

米友は歯噛みをして、両国広小路見世物小屋の方を睨めました。

それより三日目に両国の女軽業の見世物が開けて、銀床に附ききりであったお角も、どうしても小

奈良

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の奈良田の湯本まで来て、そこへ泊ってその翌日、奈良王の宮の址と言われる辻で物凄い物を見ました。兵馬が

甲府

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「これは悪い奴でございます、甲府の御勤番衆の名を騙って、ここの望月様という旧家へ強請

金を出せば内済にしてやる、それを出さなければ甲府へ連れて行って磔刑に行うと、こう言って夜通し責めているので

日ほど前のことでございました。当家の望月様へ甲府の御勤番と言って立派な衣裳をしたお武士が二人、槍を

この二人が乗って来た乗物の中へ自分が乗って甲府へ行って、この責は引受ける、村の人たちにはかかり合いはさ

「心配することはない、これはほんものの甲府勤番の神尾主膳ではない、偽り者である、その証拠には自分が

少し方角が違うけれど、拙者はちと急ぎの用があって甲府まで帰らねばならぬ者、お見受け申すに、馬は空荷の様子、

こうして宇津木兵馬は、またも甲府まで戻って来てみましたところが、机竜之助の乗物が神尾主膳の

兵馬は実に不審に堪えませんでした。だいそれた甲府城内の御金蔵破り、いま眼のあたり見れば、それはドチラも自分

世話をされて来てから、兵馬の便りは一度、甲府からあっただけでした。七兵衛は二度ばかり訪ねてくれたけれども、

が出来たというのは、兵馬さんが縛られて、甲府の牢へ入れられてしまったことだ」

さんの因果、身の明りの立つまでは、ああして甲府の牢内に窮命しておいでなさらなくてはならねえ」

あるのだが、人違いなのだ、人違いで捉まって、甲府の牢へ入れられている。運は悪く、悪いところへ通りかかったのが

浮ぶ瀬がないようなものだ。それであの神尾様も甲府へ行って、自暴半分になかなかよくないことをなさるそうだ」

から、甲府詰を仰付かったのだ。お旗本で甲府詰になるのはよくよくで、もう二度と浮ぶ瀬がないようなもの

いかにも。その神尾様がこちらを失敗ったものだから、甲府詰を仰付かったのだ。お旗本で甲府詰になるのはよくよく

……しかし、お前も今は主人持ち、ここで甲府まで出かけるというわけにはゆくまいからな」

わたしはどんなにしても、こちらのお暇をいただいて甲府へ参ります」

「行きますとも、甲府まででもどこまででも参りますとも、ほかのこととは違いますから

をきめてくれたなら、俺はひとつお前を連れて甲府へ乗り込むことにしてみよう。素直にお暇の出ないことは知れて

「それはまあよかった。甲府へ残して置いた連中もみんな、無事でいなすったかね」

「あの、甲府の方へお役替えになったそうでございますね」

「甲府のような山の中へおいでになりましては、何かにつけて

にお前は感心なところへ気がつきました。それは甲府詰といえばお旗本の運の尽きで、ああして我儘をして

、わたしはお手形なしで、裏道を通っても、早く甲府へ参りたいと存じます」

とお松との手形というのは、疑いもなく、甲府へ行こうとするその道筋のお関所へ見せる女手形のことでありましょう。それ

の借用証文を引き出しました。この証文は、お角が甲府へ旅興行に行く前に、仕込金として、忠作から借りて行った

。甲府へ行く前にこの証文通りお借り申しました。甲府から帰って参りますと、佐久間町の方へお返しに上ったんです

申したものは決してお借り申さないとは申しません。甲府へ行く前にこの証文通りお借り申しました。甲府から帰って参ります

、あの女は近いうちに娘をつれて甲州街道を上って甲府へ行くはずだから、手前も一緒に行ってみたらよかろう、その途中に

米友は腕を組んで考え込みました。甲府へ旅興行に出かけたにしてはかなり日数がかかっていたが、ついで

証拠じゃないか。ほんとにあの人は仕合せ者だよ、甲府の御城内でお歴々のお方を擒にして、今は玉の輿という

、現に君ちゃんはここにいないで、江戸へ帰るより甲府がいいと言って残っているから、文句がないじゃないか」

ちゃんに会って話をしてみりゃわかることなんだ。甲府は何というところで、何という人の家にいるんだ、それ

「よし、それじゃ俺らがその甲府というところへ行く、そうして君ちゃんに会って話をしてみりゃ

から冷かされた時のように、よい旦那が出来たから甲府へ残ったわけではなく、全く火事のために行衛不明になったの

鹿児島

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た忠作が通りの町家で聞いてみると、これは薩州鹿児島の島津家の門だと知れました。

鹿児島の島津家といえば九州第一の大大名。その門と邸の結構

徳島

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、徳島藩の中屋敷へ奉公をしておりました。徳島藩の中屋敷は薩州の邸とは塀一つを隔てたところにあっ

はお松のことであります。お松はこの時分、徳島藩の中屋敷へ奉公をしておりました。徳島藩の中屋敷は

から、船と共に江戸へ着いたお松。船頭が徳島藩の出入りでここへ世話をされて来てから、兵馬の便りは

奥座敷を出て、薩州邸の長い土塀をグルリと廻って徳島藩の裏門を入りました。

この荘内の巡邏隊は今、徳島藩邸内の騒ぎを聞いて、足を留めて中の様子を窺っている

六左衛門と作右衛門の話は徳島藩邸内で女が浚われたということとは全く別な話で、

京都

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新製を加へ極あめりかに仕立趣向仕り候処、これまで京都堺町にて売弘め候牡丹餅も少し流行に後れ強慾に過ぎ候、三条通にて

和歌山

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徳川の橋詰に店出仕り候家餅と申すは、本家和歌山屋にて菊の千代と申弘め来り候も、此度相改め新製を加へ

麹町

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「拙者は江戸麹町番町、旗本片柳伴次郎家中、宇津木兵馬と申す者」

人形町

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人形町の唐物屋を貧窮組が叩き壊した時は、朝の十時頃から始め

浅草

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市中を歩いて佐久間町の裏長屋へ帰ります。今宵は浅草方面から売り歩いて両国橋手前まで来ると、

蔵前

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「どうもお気の毒さま、これから蔵前のお得意まで行くんでございますから」

日本橋

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神田へ出て、日本橋を通って、丸の内へ入って、芝へ出て、愛宕下の通りをまだ

神田

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神田へ出て、日本橋を通って、丸の内へ入って、芝へ出て、

へ奉公して見ると、この界隈の物騒なことは、神田や本所のそれ以上でありました。越後屋は大きな蕎麦屋で、奥座敷などが

上野

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この頃、また上野の山下へ一軒の変った床屋が出来ました。

「親許は上野の山下で、もう結納のとりかわせも済んで、近々のうちにお輿入れ

「親許は上野の山下だって? そうしてそれは武家か町人か、ただしまた慈姑

千住

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ているようだ、おれは今日、組合の方の寄合で千住まで出かけなくちゃならねえのだ、それで遊山かたがた、久しぶりで草鞋を穿い

をして行くなんて、そんなばかばかしいことがあるものかね、千住がよっぽど遠くってお気の毒さま」

お言いでないよ、火事場へ行くんじゃあるまいし、千住まで行くに草鞋を穿いて行くやつがあるものかね、組合の寄合に

両国橋

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何も消息がないと聞いて失望して、帰りがけに、両国橋を渡りかかると、多くの人が橋の上に立っていますから、

悪まれてツイこの間の晩、首を斬られて、両国橋へ梟し物にかけられた惣兵衛の家です。その首が誰がどう

「待ってたんだ、両国橋の立札を川ん中へ抛り込んだのは俺らの仕業に違えねえ、

佐久間町の裏長屋へ帰ります。今宵は浅草方面から売り歩いて両国橋手前まで来ると、

の米友もこの時は、実に口惜しかったと見えて、両国橋の真中に来た時分に、立ち止まって橋の欄干から下を覗きながら口惜し涙

突き落されて死んだはずだが、それが生き返って、いま両国橋の上に立っているんだから、私は驚きましたよ、幽霊か

七兵衛と米友とは、どっちが先ということなしに両国橋を、本所の方へ向いて渡りながら身の上話。