伊豆 銀座 品川 新橋 東京

はこんな会話を半意識的に聞いて居た。先月私が伊豆の転地先から帰つて来ると藤浪君が留守中のことを話した。その後

「桔棟」へ行つて遊ばうか。二三人種田君の銀座の事務所に集まるとすぐ相談は決まるのであつた。日の暮れを待た

には、お糸さんの内が最も適当であつた。品川に気のいいお茶屋があると云つては、いろいろの友達にも紹介した

「品川方面は御免だよ。」

糸さんの用事つてのは詰らないことであつた。品川のある小新聞社の社員が艶種を売りに来たので、少し許りの

しまつたんだよ。さうさう。此間やまと新聞かで品川芸者の評判記が出てゐたが、おもちやさんが一流の流行

が苦しさうであつた。中途でしやがんだりしてやつと品川へついた。電車を下りたら目まひがしてあるけぬと云ひ出した

て一泊して夕方帰途についた。蒲田で乗換へた品川行の電車が生憎混雑して居つて、腰をかける席もなかつた

「何しろ品川で一流だからね。」

『お糸さん、私も昔と違つてなあ、どうも品川で女買が出来なくなつたよ。』つて笑つていらつしや

時々いい加減の挨拶をして居たが、其頃は主に新橋で会遊するやうになつて居たのであつた。

「此頃は新橋ださうですね。若くつて綺麗ですから御無理もありませんけれどねえ。

「新橋の方がそりや上等ですもの。」

て上海の支店へ出稼ぎにやられた。何月の何日に東京を立つて何日に此地へついた。外国と云つた丈でも分る

に遇つたのは一年ほど経つてからであつた。東京座で団蔵の師直と梅幸のお岩とが呼物で大層な景気