伊豆 富士山 名古屋 静岡 東京

東京に一泊して悄然として亨一は、伊豆の侘住居に帰つた。すず子の顔を見ることさへ苦しいのであつた。すず子

の下まで行けば、向うは眼開がひろくなつて、富士山がすぐ眼近に見える。村の人は富士見の松と云ひならはして居る

地に来た。山間の温泉場ではあるが、東京から名古屋へかけての浴客を吸集して、旅館の甍は高く山腹に聳えて居る

「静岡へですよ。」男は重ねて云つた。女はこの二度目の詞

「静岡へ送金することは、私の為事の一つでしたわねえ。貴方の

の愛情をも虐殺してしまつた。小夜子は別れて静岡の姉の家に身をよせたが、亨一は之に対して生活費を

て此地に来た。山間の温泉場ではあるが、東京から名古屋へかけての浴客を吸集して、旅館の甍は高く山腹に

の荒んだ心に霑ひを与へた。三月の初めに東京を逃れて此地に来た。山間の温泉場ではあるが、東京から

程度の自由が亨一に与へられるやうに心配もした。東京に居ちやいけないと、諸友は頻りに隠栖を勧めた。煩雑と

翌日亨一は金策の為東京へ出かけた。一二の同志は疑ひ深い目付をして此話を迎へた

東京に一泊して悄然として亨一は、伊豆の侘住居に帰つた。

亨一が東京へ行つた一日一夜を通してすず子の考へたことは、之れとは全く

ことであつた。かうして居るうちにも、女は東京へ行くことをもうよしてしまひましたと云ふであらうとも思つた。もし