治郎吉格子 / 吉川英治
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―。ふた月も病人を装って辛抱していたこの有馬の湯治場から、世間の陽あたりへ歩き出せば、すぐにあしのつくという
――で、無性に、あぶない世間が恋しくなって、有馬の槌屋を立ったのが七十日ぶりの爽やかな秋の朝で、湯治中
「どっちにしても、生涯、有馬にいるわけにはいかねえもの」
「有馬へだって、何度、お役人や人相書が廻って来たか知れませんもの」
が、太左衛門橋で、髪結床をしているということは有馬の逗留中に、度々聞いていたが、今日ここへ来たのは、
「ま、そんなものさ。金比羅から、有馬にすこしばかり落着いて、御多分にもれない、上り大名の下り乞食」
いう乞食になら、あっしも、稀にゃなってみたい。有馬では、どこへお泊りで」
と、治郎吉は考えるのだ。同時に、有馬の気まぐれが、よけいに馬鹿らしくもなるし、一歩まちがえば、あぶない体でこんな
入れておいたからそいつを、兄貴にくれてやって、有馬へ帰るとも、身の振り方をつけるとも、いいようにしたらどうだ」
「有馬から、何か、いって来ましたか」
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「丹後町の、脇坂佐内様というお旗本の用人を勤めておりました」
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「父が丈夫なうちは、堂島へ出て、米商いをしていましたが、それも、相場に焦心
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わざと、道頓堀の人混みへはいって、細い路地から千日原まで抜けて来た。そして、
道頓堀の人混みを縫う。
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「わたしも、江戸へ、連れて行ってくださいな」
を知らねえからそう慕ってくるんだ。実あ、おらあ江戸をずらかって来た兇状持ちだ。悪いこたあいわねえから、おれと、なんか
「え。わたしは、惚れているんです。江戸をあらした鼠小僧の」
くゆらしながら、家のなかを見まわした。床屋といえば、江戸も上方も、似たりよったりなものだった。隅では、一組、
「旦那、江戸ですね」
「江戸の野郎はがさつだからね」
「てまえは、江戸のもんですが」
出る惧れがある。――だが、いくら詰っても、江戸の鼠が、上方でケチな仕事をしたとは人にいわれたくない
だが、その江戸を食い詰めて上方落ちを極めてからは、華やかな悪運も、そういう目ばかり
目ばかりは出なかった。人相書こそ廻っているが、江戸で仕事をするほど、反響はない。鼠の人気も、無論なかった。
「じゃ、おまえさんたちは、江戸にいたのかい」
「江戸を荒した大泥棒で、なんでも近頃は、上方へ立ち廻っていると
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天保山の磯茶屋から、月見舟がたくさん出る。酒をつんで、妓をのせて
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れて、女の憂鬱を慰める責任も感じないように、思案橋の往来をながめていた。
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、怖がるこたあねえよ。月を見ながら、今夜あ、住吉の曙へ行って泊るのさ。紅梅家でも承知のうえだから、
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脇坂様は、御普請方をしておりますところから、永代橋のお架け替えに、職人達へ支払う公金を、たった一晩、お屋敷の