濞かみ浪人 / 吉川英治
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海路、摂津から四国へ行く便船は、こよいの八刻の上げ潮に纜を解くというの
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捨てない主君であった。国表では使い難いそうだから江戸へ廻せという程度で、定府の方に転役させて、何も云わ
もきくし、野広く生きていられる気がするが、江戸の藩邸では、朝も夕も、主君と一つ棟にいて、跫音
数右衛門はすぐ草履を穿いた。江戸はまだ不案内なので、一も二もなく、そう云ってくれた人の
いかにも、江戸馴れている肌合が、数右衛門には、これでも同藩の人かとふしぎに
城受取の藩の大任がすむと程なく、赤穂にも江戸にも、その姿をかくしてしまった。
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為、お国表から、大石内蔵助殿が御人数を率いて四国へ渡っておられる故――その方へ、差廻されることになった』
海路、摂津から四国へ行く便船は、こよいの八刻の上げ潮に纜を解くというので、
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赤穂城に近い千種川で川狩が催された時である。舟中の宴の座興
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『いやいや、先頃より松山城の城受取り方の公命が当藩に下っておる。その為、お
れた松山城の絵図面であるとの仰せ。――松山城に城受取りの任を帯びて出向いておる内蔵助殿にとって、何か
、御書面ではなく、お手近の文庫より見出された松山城の絵図面であるとの仰せ。――松山城に城受取りの任を
書を、内蔵助に残して、不破数右衛門は、その後、松山城受取の藩の大任がすむと程なく、赤穂にも江戸にも、その
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物柔かい言葉づかいが、京都の大町人を思わせるような所がある。数右衛門は心の中で、
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『いやいや、先頃より松山城の城受取り方の公命が当藩に下っておる。その為、
『至急、松山城外にある大石殿の手元まで、殿の御秘札一通を携えて
からと云って、それで済む問題でない、第一、松山への使命が遅れる。
れた松山城の絵図面であるとの仰せ。――松山城に城受取りの任を帯びて出向いておる内蔵助殿にとって、何
、御書面ではなく、お手近の文庫より見出された松山城の絵図面であるとの仰せ。――松山城に城受取りの任
書を、内蔵助に残して、不破数右衛門は、その後、松山城受取の藩の大任がすむと程なく、赤穂にも江戸にも、
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『深川ですよ』
『深川』
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永代橋まで来ると、子葉は俳友の雪中庵が、風邪で寝ているので
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堀の涙橋から、少し歩いて、隅田川の方へ入ると、数右衛門などは、潜った事もない粋な貝殻葺
隅田川の広い闇を、まるで幻を見るように、降り出した初雪が、白い
隅田川の災難も、過失だと思っているのだ。むしろ自分の不覚――