醤油仏 / 吉川英治
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「何ともありゃしねえ、毎日砂利場か、深川の佐賀町河岸へ荷揚げに出て来るから確かなものさ」
「佐賀町で、醤油賭の伝公といや、知らない者はない。だが伝公
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そんな江戸の時世でいながら、銅鑼亀さんの部屋にいる日傭取などは、食う話
ても差しつかえあるまい。ろくな力にもならない癖に、江戸の人間の悪い性分で……どうも聞かずにいられない」
てくれと、こう因果をふくめられました。――で江戸へ出て参りましたが、もう路銀も尽きました上に、養母のお咲
好きな事を考えていられた。もし養母のお咲が江戸にいたって、裕福である気遣いはなし、仲間の一平と往来で出会っても
「江戸から姿を隠して、叔父にも鳥取の者にも、一生会わないことに
れた人が、死んだと聞かされた時、私は江戸の人間は、案外智慧なしだと思ってましたよ」
聞いてみると、醤油賭の伝公というのは、江戸へ来てからの変名で、もとは左次郎の父に仕えていた仲間の
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ツになるというので、竹、六、勘、由、亀親方の五人は両国から別の方にわかれ、丑、三公、左次郎の三人だけは、何時もの砂利場へ軽
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「何ともありゃしねえ、毎日砂利場か、深川の佐賀町河岸へ荷揚げに出て来るから確かなものさ」
「佐賀町で、醤油賭の伝公といや、知らない者はない。だが
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「鳥取の池田家に仕えます者で、はい、因州です。父は納戸方で七
も、同行した仲間の一平という者も、そのまま鳥取へ立ち帰りませんのみか、頼りも沙汰もなく、足かけ六年打過ぎて
なければ、せめて、仲間の一平の首だけでも持って鳥取へ帰ってくれと、こう因果をふくめられました。――で江戸へ
ふと、吸っている煙草入れを見ると、それも鳥取の古市で名産としている漆革細工なので、
「もしも、貴方は鳥取じゃありませんか」
かの土産に貰ったのよ。……するとおめえは鳥取かい?」
「私も鳥取ではございません……」
「江戸から姿を隠して、叔父にも鳥取の者にも、一生会わないことにしよう」
南絵の壺を求めて、どうかして、もう一度、鳥取へ帰りたいという望みが動機だった。
を過ごすうち、遂に、的も何もかも外れて、鳥取へ帰る機会を失ってしまった。
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「何ともありゃしねえ、毎日砂利場か、深川の佐賀町河岸へ荷揚げに出て来るから確かなものさ」
「一昨日、深川の帳場で、例の伝公と一緒になった。止しあいいのに
いなせ者が多い深川のことだ。昼や朝湯がこう休みの筈はない。かれはその裏通り
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「だってお前、おれが一度仕事に行った浜町の砂利場にゃ、平気で一升賭をする奴があるぜ」
浜町の砂利場へ廻されて来た日だった。