鳴門秘帖 01 上方の巻 / 吉川英治
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宿を急ぎ足に、関明神の石段の下まで来た。逢坂山の杉木立が魔のように見えて、ごうッと遠い風音も常なら気味の
空を見あげると、一面に、まッ黒なちぎれ雲――逢坂山の肩だけに、パッと明るい陽がみえるが、四明の峰も、志賀粟津
、夜はだいぶ更けたらしいが、弦之丞はまだ帰らず、逢坂山の上あたりに、不気味な怪鳥の羽ばたきがする。
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は、少し小出しに費いこむこッた」無駄口を叩きながら、淀屋橋の上にかかると、土佐堀一帯、お蔵屋敷の白壁も見えだして、少しは
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大川の三角洲、四貫島、うす寒い川風が、蕭々と芦を鳴らしてやまぬ。
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「江戸で甲賀を名乗る家といえば駿河台の墨屋敷、隠密組の宗家といわれる甲賀世阿弥だ……ウウム、その世阿弥
「へい、倒れかかっている駿河台の喬木、甲賀のお家を支える力は、あなたのほかにはございません。
お千絵様そのもののように思いなされて、恋人の棲む駿河台の墨屋敷や、なつかしい江戸の風物までが瞑想の霧に描きだされてくる。
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「的は四国、阿波の御領へ渡ります」
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とか、四刻客はお断りですとか、今日、大阪入りの初ッぱなから、木戸を突かれ通しじゃございませんか」
三都諸国を流浪のあげく、この春頃から御番城のある大阪の河岸すじを夜な夜な脅かしているお十夜孫兵衛。
を包むに都合のいい国、一朝淡路を足がかりとして大阪を図り、京へ根を張る時は、西国大名と呼応して屈強な立場
につかないように、江戸のお方や弦之丞様を、大阪から離れた隠れ家へやってあるものを、私が出入りなどすれば、また蜂須賀
京大阪へ別れの辻、東海道へはふりだしの大津追分、宿の家なみはうす黒く暮れて
ではお米、その人恋しさに、矢も楯もなく大阪から飛んできながら、弦之丞の影をちらと覗くと共に、迷いと羞恥
やれやれとんだ世話をやかす奴、実はちょっと前から、大阪の親戚の者で遊びにまいっていたのでございますが、そのうちに
そこで、大阪表から、東海道へかかってきた二人は、今日の途中、何か知りたい
不審に思うであろうが、実はこうじゃ。身どもは大阪表のある蔵屋敷詰の者であるが、同僚たちと語らって、何ぞ趣向
「この分では、所詮、大阪までは保っていまい」
、世間の目を避けるためにも、必ず裏街道をとって大阪へ戻るであろうと察したので、彼は、迷うことなく道をとって
禅定寺峠から、万吉を江戸に立たせ、自分だけ大阪へ戻ってきた弦之丞。訊ねれば、すぐにも会えると思っていた住吉
伺いました。その時の様子では、弦之丞様がまた大阪へお戻りになったとやら……実は心の中だけで、もう一度
宏壮な棟を望ませている所は、阿波守重喜が大阪表の別荘――いわゆる安治川のお下屋敷。ここ須臾の間に、法月弦之丞が
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な、危ない気運が芽ざしつつあるのに、何という江戸城ののんきさだ。前将軍家重の遊惰なこと。今の十代家治の
あぶないのは江戸城のみか、恋人お千絵様の前途はなお暗い――。その禍いは、彼女
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顎を上の山へ向けて、「あの頂に見える、蝉丸神社の額堂を、今夜だけ、借りうけたいと思うが、別に差しつかえはあるまい
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堂塔は淡くぼかされて、人気もない天王寺の夕闇を、白い紙屑が舞っている。
に立つ、も少し淋しい所まで歩かせて、今夜こそ、天王寺で逃げだされたような下手をやらずに……」などと加減をして
天王寺で掏りとった三百両や、和蘭陀カルタで思いがけなく勝ちぬいた金、合せて
「天王寺や土筆屋などで、再三見覚えている顔ですから、決して間違いはありません
ません、そこにいる多市さんという者とは、確か天王寺の境内で、お目にかかったことのある筈です」
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近うございますが、大阪へは廻り道で、山から山を音羽や笠取の里へとって、宇治の富乃荘へも出られると申します」
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傘をほうって抜け道へ出る。堺戻りの町駕、島の内まで約束したが、気が変って五櫓
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で、山から山を音羽や笠取の里へとって、宇治の富乃荘へも出られると申します」
「宇治に在す竹内式部先生!」
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、思いがけないよい機を、どうかして遁すまいと、九条安治川の渡舟小屋の側に立って、秋陽に縒れる川波をまぶしそうにして
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「道も河内へ入れば平坦になる。大阪表まで六、七里とはないぞ」
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の閑宅にこもって以来、鳩使いとなりすまし、京の比叡、飾磨の浜、遠くは丹波あたりまで出かけて、手飼いの鳩を放して自在
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四天王寺の日除地、この間までの桃畑が、掛け小屋御免で、道頓堀を掬って
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「江戸表は山県大弐、まッ先に火を放って、箱根の嶮に王軍を待つの計か」
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、下町の小ぢんまりした格子作りで、朝の膳には鎌倉の鰹、夕方には隅田川の白魚、夜には虫売りや鮨売りもき
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「江戸浅草の今戸で、こちらは親分の唐草銀五郎、わっしは待乳の多市と
「それもおまけに江戸からだよ。双六にしたって五十三次、根よくここまでつけてきたところ
「一昨年江戸へ行った時、二、三度落ち合ったことのあるお十夜孫兵衛だ」
二百里は飛びますからね――お前さんも、たまには江戸へ息抜きにおいでなさいな。本郷妻恋一丁目、門垣根に百日紅があっ
「とすると、こいつア上方のちぼ流でねえ、江戸の掏摸だ。定めし小粒でもないだろうに、盗られた奴も変っている
を踏んだお詫びに、わっしはこれから夜昼なしに江戸へ戻って、もう一度お千絵様から手紙をちょうだいしてきますから、どう
洒落をする女だ……」と苦笑いした目明し万吉。江戸のスリ気質には、ほかの盗児にない一種の洒落気や小義理の
「江戸で甲賀を名乗る家といえば駿河台の墨屋敷、隠密組の宗家といわれる
「この手紙一本のために、あの男を、江戸まで引っ返させるのは、いくら冷てえ目明しでも少し気の毒だ。事情を話して返し
「オーイ、江戸の人」と呼びかけようとしたが、まだ逃げられる惧れがあるので、少し
「この間の口ぶりでは、巧く行ったら、すぐ江戸へ舞い戻るような話だったが、すると、あの仕事はとうとう失策物になっ
屋で見かけたという者もあるので訊き糺すと、江戸の客をつけて行ったという話。また、その客の連れ唐草銀五郎と
「わしは江戸の平賀源内、伝書鳩は面白うござるな、ご迷惑でも一つご同伴願い
「ええ。だけれど、江戸の伝法肌だけに気が強くて、大事な用を帯びているのだから
し、阿波の境へ入りこもうとする奴なら、紛れもなく江戸からの廻し者じゃ」
「阿波へ入りこもうとする江戸の間諜! すなおに吾々と同行しろッ!」
家中の者が心配して、人目につかないように、江戸のお方や弦之丞様を、大阪から離れた隠れ家へやってあるものを、
「当家の離れにおった江戸の男とあの夜の虚無僧、もはやここにはおらぬそうだが、まさか
「して、そちが江戸を出たのはいつごろであった?」
が世間へ知れたからッて、虚無僧寺へ隠れたあげく、江戸を去ってしまうなんていう法はねえ、第一、大番頭の若様とも
「では何か、わしがお千絵殿をすてて、江戸から姿を隠したのを、そんなに怨んでおったのか」
はい、その周馬めでござります。恋敵のあなた様が、江戸を去ったのを幸いにして、陰に陽に、お千絵様を責め
「もうたくさんたくさん――そんなに風を貰っても、江戸のお土産に持ってゆかれるわけでもなし、さアみんなも少し涼んでおくれ
、それは見返りお綱であった。――お綱が江戸への帰り途である。
とさ。それとも、まったく親切気があるなら、これから江戸の日本橋まで、押ッとおしでやってくれるかい」
「こんどのことをきッかけに、一つ江戸へ出てみたいと思うのだが」
「おやすいこと、江戸へ帰ればお綱だって、少しは顔がきくから、安心しておいで
な相談を試みた末、とにかく俵同心と万吉とを、江戸表へ、出立させることになった。
のお支度も十分にできるし、こっちの方も楽に江戸から帰れますぜ」
に思いなされて、恋人の棲む駿河台の墨屋敷や、なつかしい江戸の風物までが瞑想の霧に描きだされてくる。
弦之丞の胸には、どうしても、その愛着のある江戸の土を踏むことのできない事情が潜んでいた。
あればこそ、彼は、家を捨て、恋人を捨て、江戸から外の世間を、旅から旅へと漂泊しているのである。
帰るに帰られぬ江戸の空。折にふれ時にふれ、思慕の悩みを送る尺八の音は、
「それッ、江戸の廻しもの唐草銀五郎、またしきりにそこらを嗅ぎまわる天満浪人や、手先
にはまたその人の懊悩がある。行くに行かれぬ江戸を偲び、逢うに逢われぬお千絵の境遇を偲びやって、帰ることも
肌合は、どうみても、この辺の者らしくなく、江戸の下町に見馴れたつくりである。
「お言葉の様子では、あなたも江戸のようでおいでなさいますが」
江戸と聞くと、弦之丞もつい心を惹かれて、
「お察しの通りであるが、すると、お身も江戸であるとみえるな」
「同じ江戸の者であってみれば、いつかまたお目にかかる折もあろうが、
目にかかる折もあろうが、少し仔細があって、しばらく江戸へは帰らぬつもり……」
「いえいえ、旅もようございましょうが、江戸の住心地も捨てたものではございません。山の手のお屋敷町は知ら
感じなかった。けれど、この女のなだらかな江戸言葉で、江戸の風物を語られることは、決して悪い思い出ではない。
「お武家様にしてみれば、江戸はなおさら羽振のいい土地。同じ編笠をかぶるにしても、刀の差
にきた帰りでございますが、もしなんなら、その江戸までご一緒にお帰りなさってはどうでござります」思いきって、こういって
(江戸へお帰り、江戸へお帰り、お綱さん、諦めて江戸へお帰りよ
(江戸へお帰り、江戸へお帰り、お綱さん、諦めて江戸へお帰りよ。月夜の風邪を
へお帰り、江戸へお帰り、お綱さん、諦めて江戸へお帰りよ。月夜の風邪をこじらすと、命取りになりますよ)
にはおかない決心であった。自分というものが、江戸の地をふむことのできない境遇である間は、銀五郎こそ、お千絵様
のお言葉をきく時です。さ、おっしゃって下さいまし。江戸へ帰ってお千絵様を救ってあげて下さるか。それとも厭か…
「江戸へは帰られぬ仔細がある。それはたびたびいうてあるではないか。
至るまでの事情を話した後に、もし弦之丞がここから江戸へ向うならば、自分はお千絵様に会うことを一時思い止まって住吉村に
一度常木氏にもお目にかかっておこう。ところで、江戸のお千絵殿や銀五郎の身寄りのほうへも、早くこのことを知らせね
仔細残りなく話してくれい。そして、いずれこの弦之丞も追っつけ江戸へまいるであろうとな」
「しかし、それもごく密々に――本来江戸へは帰れぬ事情のあるこのほう、必ずとも他人の耳には触れない
その足で江戸表へ急ぎます。ところで、あなた様と江戸で落ち合える段どりは、およそ何日ごろになりましょうな」
「ごもっともでございます。江戸であなたとお千絵様が、恋とやらに燃えていた頃は、ずいぶん世話
「わっしも江戸へまいりましたら、偽紫に染まないで、その真っ赤な男気ッてところにあやかり
万吉は、道中笠を西日へ傾げて、禅定寺峠から江戸へ心を急がせて行った――。
「待たっしゃい。言葉も江戸のようであるし……法月とは聞いたような」
「麹町に住居いたす法月一学の悴。江戸ではかねて御高名を承っておりましたが、お目にかかるのは初めて
禅定寺峠から、万吉を江戸に立たせ、自分だけ大阪へ戻ってきた弦之丞。訊ねれば、すぐにも
そのご挨拶は、万吉というお人が、あれから後江戸へ行く途中に寄って下さいまして、いろいろお話も伺いました。その時
良人の万吉が大津の半斎の所へ立ち寄り、その足で江戸へ向ったと聞いたお吉は、わずかの消息にでも、ほっとした嬉しさ
浪人の常木鴻山、俵一八郎などと申す者あって、江戸の隠密どもと結託なし、御当家の内秘を探りにかかっております」
さよう、とにかく、群臣も慴伏する威風がござった。その頃江戸に将軍たる者は三代家光、この義伝公を怖るること一方ではありませ
。恨みをのんだ家中ども、ここにすさまじく結束して、江戸より奥方に従いてきた腰元用人は申すに及ばず、到る所の徳川に縁
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何かのことに夜を更かして、護持院ヶ原を帰るさ、怨みを含む他流の者が、三十人余り党を組んで待ち伏せ
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時船はちょうど、川口の左岸にある目印山(後の天保山)の裾から遠からぬ辺にあった。丘には、松の間から黒い
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「大洲の加藤家、柳川の立花家」
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ようがすとも、泊りさえ取ってくれれば、江戸だろうが、奥州だろうが、決して嫌たアいいません」
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すると、場合もあろうに、すぐ足もとの土佐堀で、ドボーン! と真ッ白な水けむり、不意を食わせて凄じい水玉が
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日除地、この間までの桃畑が、掛け小屋御免で、道頓堀を掬ってきたような雑閙だ。
「思う通りに行ったから、ついでに上方見物としゃれのめし、道頓堀の五櫓も門並のぞいて、大家のお嬢様に納まりながら、昨日は富十郎芝居の
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「江戸で甲賀を名乗る家といえば駿河台の墨屋敷、隠密組の宗家といわれる甲賀世阿弥
「へい、倒れかかっている駿河台の喬木、甲賀のお家を支える力は、あなたのほかにはございません。とりわけお気の毒な
をさぐり、もし生きていたらばしめたもんだ! 甲賀のお家に春が来る! というので実あ飛びだしてきた訳です
れて、お抱えになった忍者の出生地――有名な甲賀の山国があの辺です」
「虚無僧さん、あなたは甲賀へおいでになるので……?」
ある旅ではございませんが、最前、峠の上から甲賀の山を見ましてから、急にまいりたくなりましたので」
「甲賀……」じっと見つめている虚無僧の胸に、懐古の念が清水のよう
、懐古の念が清水のように湧いてきた。「甲賀といえば、甲賀組の発祥地、いうまでもなくお千絵殿の祖先の郷
どのの今の境界、骨身にかけて救ってとらす。また甲賀の家も支えてみせる。なおそのためには、この身の武運が尽きぬ
そこは峠の道を横に入った崖の中腹で、甲賀の山、河内平、晴れた日には紀淡の海も望まれよう、風に
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「長崎から流行って来たやつさ、異国のものでね」
「あのカルタは、私が長崎からもってきて、舞妓さんたちに教えたのだけれど、もし後で
長崎で手に入れてきた蛮種の薬草の胚子を蒔いて、一つ
ここで病家をとっているのは、長崎帰りのホンの旅中の内職だが、源内、医業にかけてもなかなか
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守が帰国の時、お鈴も供に加えられて、徳島城の奥勤めに移りそうじゃ」
ば、近いうちに蜂須賀阿波守は、卍丸をしたてて徳島城へ帰国いたすとある。安治川尻の下屋敷の様子、その取りこみに紛れて
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。――明和二年の今から数えて八年前、京都で起こったあの騒動――竹内式部の密謀が破れ、公卿十七家の
「あの歌口は宗長流、京都寄竹派の一節切じゃ、吹き手はさだめし虚無僧であろう」
なく勝ちぬいた金、合せて七百両あまりを、伏見や京都で男のような遊びぶりにつかいちらし、まず上方を見物したし、
「は、京都よりのお荷物は、あれだけで余の物はござりませぬか」
「京都よりおしのびの方達はまだ見えぬか」
には、お別れにみえた、三卿のかたがたも、京都へお帰りある時刻」
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、永いことのない命だもの! そうだ、これから大津へ行ってみよう」
はじめたのは、もう恋のほかなにものもなく、一途に大津とやらへ行って、法月弦之丞に会うつもりであろう。
「あの駕屋さん、急いで大津の追分まで行って下さいな、だちんは幾らでもあげますから」
京大阪へ別れの辻、東海道へはふりだしの大津追分、宿の家なみはうす黒く暮れて、馬や駕や旅人のかげも絶え
お米には叔父にあたる大津絵師の半斎、
「大津から外科をよんだり、薬風呂をたてたりして、あの銀五郎という親分が
ともいいようのない行列が、今――三条口から大津の方へ、おねりで練ってくるのである。
と「走り井」と書いた団扇を片手に、ぶらぶら大津の方へあるいていた。
ばきでカラコンカラコンやっていた日には、これから大津までもむずかしゅうがすぜ」
「困ったねえ、まだ大津へも着かないうちに」
、五人の者が集まってきた。追分の宿の大津絵師、室井半斎とその召使たち。
「今夜は大津泊りでしょうな」
弦之丞は、やがて大津の裏の近道を抜けて湖水のほとりまで歩いていた。琵琶にも
てつけ加えた。その者たちは、弦之丞も見知っている、大津絵師半斎の店の若い男どもであった。
「そこに抜かりはございません。じゃ、わっしは行きがけに大津絵師の半斎老人の所へ寄って、何かの詫びや礼をすました
の頃お世話になったお礼を申し上げねばならぬ。殊に大津の半斎殿には、きついご迷惑をかけまして、蔭ながらお気の毒に
はお米殿にも、あれから後に、間もなく大津より戻られたと見えますの」
「あ、万吉? その人ならツイこのあいだ、私が大津で逢ったばかり」
お米との立ち話で、良人の万吉が大津の半斎の所へ立ち寄り、その足で江戸へ向ったと聞いたお吉は
「ウム、大津より差し立てきた一八郎。それがどうした」
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南――郷の口をへて奈良街道。
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「佐賀の鍋島、熊本の細川、濃州八幡の金森家……」と言いかけた時、
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「佐賀の鍋島、熊本の細川、濃州八幡の金森家……」と言いかけた
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「江戸浅草の今戸で、こちらは親分の唐草銀五郎、わっしは待乳の多市と
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あがった所は住吉村、森囲いで紅がら塗の豪家、三次すなわち主らしいが、何
た見返りお綱。パチンと紺土佐の日傘を開いて、住吉村から出て行った。
「目明しを一匹召捕ったのだ。住吉村へつれていって、四、五日飼ってみようと思ってな」
その晩から、万吉は、森囲いの怪しい家、住吉村の三次の住家へ監禁された。縄目を解かれてほうり上げられ
夢のよう。すぐ近くには川口の澪標、青嵐の吹く住吉道を日傘の色も動いて行く。
ツーと行ったが弧を描いて南へ返り、ハタハタと住吉村の方角へ飛び去った。
一方、住吉村の木立の中、荷抜屋仲間の隠れ屋敷。
またもとに返ってソヨともしない森の静けさ――住吉村の奥らしく、ジーッと気懶い蝉時雨。
住吉村へ万吉を救いに行って、ぬきやの手下どもを取り押さえ、そのまま
時雨堂から、危うく逃れた目明し万吉。この変事を、住吉村にいる常木鴻山へ知らせようとして、ヘトヘトになりながら、折
ならば、自分はお千絵様に会うことを一時思い止まって住吉村にある常木鴻山へ、事態の急変を知らせたいという気持を
「その住吉村へは拙者がまいって、一度常木氏にもお目にかかっておこう
今考えてみると、あれは三次の密告だな。住吉村のぬきや屋敷へ、不意に覆面のやつが斬り込んできた。二
た弦之丞。訊ねれば、すぐにも会えると思っていた住吉村へ行ってみて、思わぬ失望をした。
「そうですか、それはもう住吉村には誰もおりますまいよ」といってから、「では、
「鴻山は住吉村から追っ払い、また一八郎はすみやかに召し捕りました。やがてこれも剣山へ
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話しながら、何気なしに日本橋の方へ待ち佗びた眼をやると、今度こそたしかにそれ! 早
。それとも、まったく親切気があるなら、これから江戸の日本橋まで、押ッとおしでやってくれるかい」
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そこで、京の芸子や仲居たちは、江戸蔵前の大通のお嬢様が、いよいよお立ちというので、走井の茶屋まで見送っ
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「麹町に住居いたす法月一学の悴。江戸ではかねて御高名を承っておりまし
「ほほう……麹町の法月一学殿といえば、大番頭をお勤めになる七千石の旗本
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、天満岸を真っすぐに、東奉行所の前を抜けて、京橋口のてまえ、八丁余りの松並木――お誂えの淋しさである。
多市の声だ。斬られたと見えて苦しそう、京橋堤をタタタタと逃げ転んできた。と、その影を追い慕って、
京橋口の松並木で、目明し万吉を子供あつかいになぶった上、「さ、召捕ら
京橋口で、万吉の名が彫ってある十手を拾って、届けてくれた
ッとならないのが孫兵衛の性格である。――たとえば、京橋口で、斬るべき万吉を斬らずにフン縛ったり、ぬきや屋敷の椎
一方は唐草銀五郎かも知れません。いつかの晩、京橋口で孫兵衛に斬り捨てられたとばかりに思っていた多市が、こんな
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作りで、朝の膳には鎌倉の鰹、夕方には隅田川の白魚、夜には虫売りや鮨売りもきて、縁日のある町