鳴門秘帖 02 江戸の巻 / 吉川英治
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「時に御新造様……、この駿河台にある甲賀組というのは、たしか、この前の囲いの中にある、
彼が江戸へ入ると真っ先に、この駿河台の墨屋敷、甲賀家の門を訪れたのは無論だったが、ひょいと
帰っていない様子なので、そのままブラブラ戻りながら、駿河台へ行ってみようか、明日を待って、もいちど妻恋へ出なおすと
かの、駿河台の墨屋敷――鏡の裏の穴蔵部屋で、お綱や、お千絵や
「――やッ。火事は駿河台の甲賀組らしいぞ。あの墨屋敷の下の森から、真っ黒な煙が吹き出し
「えっ、駿河台の墨屋敷だと※」
、紅梅河岸を一散にぬけて、息もつかずに、駿河台まで韋駄天と飛んできた――。
、紅梅河岸から上り道、突きあたる奴を突きとばして、まっしぐらに、駿河台へ駈け上がった。
の姿も、どこに見ることもならず、神田一帯、駿河台の上り口、すべて、人と提灯と火事頭巾と、ばれんと鳶口の光ばかり
「怪し火? フーム……して駿河台の、甲賀組の墨屋敷などは、かけ離れてもいるから、さしたることはある
駿河台から蜿蜒と下町へのびた火は、その夜、川を越えて外神田の一角
「そうでもなければ、あんな宵に、駿河台から外神田まで焼けッちまうなんて、ばかなことはありますまい。おまけに、小川
「しかも大火だ、おまけに目ぬきな神田から駿河台、あの辺のお屋敷町まで、この暮へきて焼け野が原だ」
客はわれがちに陸へ上がった。神田大火の噂――駿河台も焼けたという話――などを小耳にはさんで、不安らしい色を浮かべ
「駿河台の辺はどうでございましょう」
、お庭の者、などと称される隠密の役は、駿河台の甲賀組、四谷の伊賀組、牛込の根来組、こう三ヵ所に組屋敷が
、疲れと寒さをこらえながら、その夜のうちに、駿河台まで辿ってきた。
「ああ、そういえば旅川さん、あの人は駿河台とかいっていたから、ほんとに焼けだされてしまったのかもしれ
目明しの万吉は、その後もたえず駿河台の焼け跡に立ち廻っていた。
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、スタスタと立ち去って行く――。子安、生麦、鶴見、川崎――、浦づたいの道はそこで切れて、六郷川の渡舟――、
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「エエ寒い。こいつが関東の空ッ風か……」
「一月寺関東の支配所」
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「実はわっしは、大阪表からまいりましたもので、はい、是非折り入って内密にお目にかかりたい
大阪以来ここしばらく、そぼろ助広にもうまい生血を舐めさせない。
大阪表から東海道へ下ってきた――。かなり急いできたのである。
、蜂須賀阿波守から、弦之丞を刺殺せよと命ぜられて、大阪表から後になり先になって、ここまで尾行してきた原士の
「あれか、ありゃ大阪の姉川新四郎よ」
いる。ましてや、ここには蜂須賀家の天堂一角や、大阪表でチラチラ噂に聞いたお十夜という悪浪人まで道づれだ。
、この処方は、手前の究学ではござりませぬ。大阪表におりました頃、しばらく一緒におりました、鳩渓平賀源内と申す
「ウム、たしか二度ほど見かけている。一度は大阪表にいた当時、住吉村でそちを見た。また、一度はツイ先日
きたが、さて、渋茶をくんで出すいとまも惜しい。大阪以来のつもる話、江戸表へ来てからのこと……何から何を話し
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この橋から向うは、江戸城の外濠、大手門、桔梗門、日暮門、それを取り巻く家屋敷というものも、
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この橋から向うは、江戸城の外濠、大手門、桔梗門、日暮門、それを取り巻く家屋敷というものも、およそは皆大名
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といわせて、その身がらを引き取ってくると、ちょうど、浅草寺の闇の中に、お十夜や周馬や一角などが、何か待ち伏せで
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見返りお綱の指わざが、天王寺で、あの紙入れを掏ったばかりに、渦が渦を呼ぶ鳴門の海のよう
に、かれはどんなに、自分の罪を怖ろしく思ったろう。天王寺で掏り取った紙入れ一つが、やがて多市の死となり、銀五郎の最期と
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「なんでも、うすら覚えに考えると、あの弁天山や仁王門の桜が、チラチラと、散りぬいている晩でしたっけ。――
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ここは根岸の奥の一月寺、普化僧仲間で、俗に風呂入とよぶ宿院で
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がしかし、神奈川の浦に立ち、品川の海辺に立って、江戸の姿を眺め、だんだんと
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から、観音堂を一周りして、さて、帰ろうかと、雷門から並木の方へブラブラと出てくると、湯女のお勘が、
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「それをお綱は、四天王寺で犯した、自分の罪の償いだと信じているのですから、止めるわけ
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、などと称される隠密の役は、駿河台の甲賀組、四谷の伊賀組、牛込の根来組、こう三ヵ所に組屋敷があった。
で、もう一人の女子だけを駕に乗せて、はるか、四谷の台を迂回して、焔の中から逃れてきたのじゃ。ところが
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「とすると――佐久間町あたりは、どんなものでござンしょう」
「その佐久間町の四ツ角でさ。願掛けがあって、大山の石尊様へお詣り
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江戸の巻
峠の上から、弦之丞と西東に立ち別れ、一足先に江戸へ入った万吉は、まだ何かの都合で、お千絵様にも会って
彼が江戸へ入ると真っ先に、この駿河台の墨屋敷、甲賀家の門を訪れたの
江戸へ帰って以来、いよいよはかなきものと悩んでいた、弦之丞への接近へ、
こういっておくんなさい。――近いうちに法月様が江戸へきて、ぜひいろいろなご相談がある、それには旅川周馬なンて
流行の伝九郎好み、羽織の紐とておろそかではない。だいぶ江戸ふうにかぶれたところがある。お綱好みの迎合をやらかし、これでお綱
「てめえが江戸へ来れば江戸表へ、北へ逃げれば北の果てまで、我を折って
どっちも物騒きわまる人物だが、周馬を、江戸という都会型の悪党とみるならば、孫兵衛は、元阿波の原士で
「あしたは江戸へ着くという所を、たしかに、拙者がつきとめている」
法月弦之丞が江戸へ帰る!
失敗する。なにせよ法月弦之丞は、夕雲流の使い手で、江戸の剣客のうちでも鳴らした腕前、さよう……貴公と拙者と二人がかりで
今日は、まる十年と二月前に、世阿弥が江戸を出た日であった。
たみの兄が帰ってくるか、また、弦之丞様でも江戸へおいでになれば」
この二人だけは、阿波にも江戸にも、何ら中心の事件にかかわりなく、今日まできたが、いつか
恋人である法月弦之丞は、東海道八ツ山口から、あすは、江戸に入るという周馬の話。
一歩、かれが江戸へ入れば、そこには、周馬、お十夜などの毒刃が伏せてあり
嵐の前兆が、今や、どこからとなくソヨソヨと、江戸の近くへ見舞ってきた。目明し万吉、かれの神経が、この模様を、
「どう考えてみても、弦之丞様が、江戸へお戻りなされる筈がない。これは何かの間違いでありましょうが」
高台、火は強し、空いちめんを真ッ赤にして、江戸から見えぬ所はない。
のだ。まア火事なんざあどうでもいい、いよいよあすは江戸へ入るという、法月弦之丞から先に片づけてしまうことのほうが、今夜の
翌日というのは、法月弦之丞が、江戸へ着くのをさすのである。かれが江戸の地をふまないうちに、
弦之丞が、江戸へ着くのをさすのである。かれが江戸の地をふまないうちに、かれの命を絶ってしまうことは、周馬に
東海道から江戸へ入るには、是非ともさしかかる八ツ山口か高輪の浦あたり――、その
「その弦之丞様が江戸へ帰ると、うぬの首も危なくなるぞ。悪いことはいわねえから、お
から、きれいな砂浜の眺めがひらけ、のたりのたりと波うつ浦が江戸まで六里。
ふと見ると浦づたいに、江戸のほうへ向って、サク、サク、ときれいな砂へ草鞋のあとをつけ
「おお、江戸が見える! ……」
―もっと深くさし覗くと凛とした明眸が、海をへだてた江戸の空を、じっとみつめているのであった。
、蒲田、鈴ヶ森、浜川と足を早めて、一歩一歩と江戸の府内へ急いでゆく。
心なしか浜川の海岸へ立って、ふたたび、江戸の方角をみると、大火の余燼がまだ残っているのであろうか、どんより
見届け、阿波守が帰国する船出までを確かめて大急ぎに、江戸へ引っ返してきたのである。
江戸には、先に万吉をよこしてある。いずれ万吉はもうお千絵様と会っ
何のために、二度と足をふむまいと誓った江戸へ、急いで帰る必要があるか、弦之丞の奮起はまったく徒労にならねば
そうだ、かれは江戸へ帰るべき筈の人でなかった。終生、旅で暮らそうと誓っていた
しかし、神奈川の浦に立ち、品川の海辺に立って、江戸の姿を眺め、だんだんと御府内へ近づいてゆくにつれて、かれはなんと
ではなぜ、そんな親しみのある江戸を捨てたのであろう?
に呪われて幕府の耳に入ることになり、かれが江戸に止まる以上は、かれの父法月一学の家も、またかれ自身も、恋人
こうして、法月弦之丞は、いよいよ江戸へ着いたのである。
、そして、お綱の思いあくがれている彼の姿が、江戸の地へ立ったのである。
と一歩、かれが江戸へ入るとすぐに、こういって、その姿を凝視した者がある。
相手の姿が江戸の雑沓へまぎれこむと、容易に討ち難くもあり、影もくらまされる怖れもある
「広いようでも江戸の中なら、きっと知れるにきまっている」
「新四郎の自来也ときては、もう古いものだ。今頃江戸の市へ出るなんて……」
「そういわれてみると、江戸には見かけぬ珍しい朱鞘を差している」
「あまり江戸で見かけない、自来也鞘をさしているので、ちょっと、ハテなと目
==予は江戸に着いて、お千絵どのの居所を求めつつあり。また予をたずねんとする
うむ。弦之丞様も、やっぱりこっちで察していた通り、江戸へ着いて迷っているのだ」
多市の死となり、銀五郎の最期となり、ひいてはこの江戸の空へまで、幾多の怖ろしい禍いを波及してきた。
「江戸のことは他人任せがいい、どこへでもお供をしますよ」
うちは、まだそんなにまでは思いませんでしたが、江戸へ帰った後にお前さんから、いろいろな話を打ち明けられてみて、初めて
だがしかし、それが弦之丞であると知ると、江戸の大道で、かくも明白に出会した仇と仇が、どうなりゆくのか
。第一、自分は本来まだ公然と白昼笠をはらって江戸の巷を歩くことのできぬ身――という立場からも、弦之丞はあくまで
ござるよ。アハハハハハ。おう、それはさておき、法月氏、江戸へお帰りになったからには、さだめし、お千絵殿とお逢いで
輪にきかれて、お綱はギクリと言いつまった。江戸はおろか東海道から上方へかけて、掏摸を働いているなんていうことを、どう
安永頃にはもう江戸は混浴禁止になっている。男のくせに大手を振って、女湯へ入っ
かけ違って、弦之丞と会わなかったため、鴻山もすぐに、江戸へ立った。
も畳み、妹弟たちの始末もみて、いつでも、江戸に未練のないように、心支度をしているものを――。
こうならこうと、明らさまにいっておくれでない。私も江戸の女、事情を明しておくれなら、どうでも自分の情を張ろうとは
「えッ……。では法月さんは、もうこの江戸にいないのだね……」
も天満の万吉だ。ポカンとした面をして、江戸に待っていられるものか。弦之丞様に追いついて、どうでも一緒に阿波
て、弦之丞様やお前さんの側を離れて、このまま江戸に揉まれていれば、いつかまたよりが戻って、癖の悪い指技の
秘命をふくんで、深秘の間者牢を訪れるべく、単身江戸を立って行った目標の人ではないか。
明らかに自覚したお綱。意気地を肌と一緒に研く江戸の女の気質をも、多分にうけている見返りお綱だ。
先に江戸を立って行った法月弦之丞も、垂井の国分寺に行って、ひそかに、それ
江戸から中仙道へ踏みだす第一関門、本郷森川宿のとある茶店をたたき起こして、そこに
わざわざ見送ってきた常木鴻山は、いよいよ夜にまぎれて江戸を立つ二人の者へ、何くれとない注意を与える。
そちや弦之丞殿をつけ狙っている者もあることゆえ、ひとたび江戸を踏みだした後は、いっそう油断をしてはならぬぞ」
、万吉は笠の紐を結んだついでに、今宵かぎりの江戸の空をふり仰いだ。
「えッ、江戸におらぬと※」
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護持院ヶ原まで飛んでくると、周馬はそこで、茫然と足を止めてしまった。
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で、石町から裏道へそれ、やがて、呉服橋をこえて、丸の内へ入ってゆく。
ぜ! お濠の柳が芽を吹いてら! 丸の内へも渡り鳥がやってきたぜ! 三本鳥毛の槍先にチラチラ蝶々が舞っ
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隠密の役は、駿河台の甲賀組、四谷の伊賀組、牛込の根来組、こう三ヵ所に組屋敷があった。
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「箕輪の浄閑寺、あすこの、投込みへ、無料で頼むよりしようがないでしょう」
「浄閑寺の投込みは、廓の女郎衆で、引取り人のない者だけを埋葬する所
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すると、その出合いがしらに忍川の方から、いっさんに、バラバラッと駈けてきた二人の角兵衛獅子があった
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を避けて、芝の山内へ歩いてゆく様子――、増上寺の山内は、もうドップリと暮れていた。
途端に、弦之丞は、何思ったか、増上寺の門内へ、ツイと身をひるがえして駈けこんだ。
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と。まっ白に塗った湯女が、銚子の代えを持ってきながら、
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とも知るや知らずや、弦之丞は大木戸から裏通りへ入って、三田から芝のほうへ急いだ。
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外神田の河岸ッぷちを、風に吹かれてすッ飛んできた、角兵衛獅子の二人
と下町へのびた火は、その夜、川を越えて外神田の一角を焼き、東は勧学坂から小川町の火消屋敷を舐めつくし、丹後
「そうでもなければ、あんな宵に、駿河台から外神田まで焼けッちまうなんて、ばかなことはありますまい。おまけに、小川町に
「お! ありゃいつぞや、外神田の飯屋で見かけた、お三輪と乙吉――」
にまた駈ける。足はドンドン加速度になって、またたくうちに外神田から鎌倉河岸――評定所のある辰の口和田倉門はもうすぐそこだ。
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いる。無論そうなれば、あのお方一代の誉れ、甲賀の家にもふたたび花が咲こうし、十年以上も暗闇の手探りをして
前に、五十間の町年寄から、お綱は甲賀という由緒ある侍の娘だということを、鴻山にいってきては
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一番鐘をついた見附のすり鐘に合せて、やがて遠く、両国のやぐらや鳥越あたりのお火の見でも、コーン、コーンと、冴えた二ツ鐘を
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ここに、お十夜の姿をみるのは、大津以来のことであるが、困れば、相変らず持病の辻斬りを稼ぐと
。で、本人に聞いてみると、弦之丞様とは、大津の打出ヶ浜とやらで、一度シンミリとお話をしたことも
「大津の打出ヶ浜と申すと? ……ウム、あの嵐のあとの月夜
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奈良茶飯か何かへ寄って、まだ少し早い支度をすましてから、観音堂を
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居所を求めつつあり。また予をたずねんとする者は、下谷一月寺、普化宗関東支配所にて問われなば知れん==。
「アア下谷の虚無僧寺でござるか。そのうちに、是非とも一度おたずねいたす」
んが、いつでも、すぐに御案内申しましょう、下谷根岸の一月寺においでなさいます」
「下谷の一月寺におるッて書いてあります。お長屋の衆、後生です
限り、その人々の中にまぎれて走ったが、やがて、下谷の四ツ目の辻新堀端まできた時に、ヒョイと道を交わそうと
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たが、今から十一年前、かれが所司代として京都に在職していた当時――宝暦の事変が起った時には、
で血眼になって活躍していたころ、左京之介も京都にあって、事件の要路にあたる所司代であった。
て托鉢する者は、誰でも宿泊できるが、弦之丞は京都寄竹派の本則をうけているので、この寺とはまったくの派違い
た。そしてなお委細のことは伝手を求めて、元の京都所司代、松平左京之介の手もとまで、言訴してある由をつけ加えてある
が効を奏して、楓の間の密議となり、元京都所司代であった松平輝高は、召されて将軍家から内々に秘命をうけた
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ここは江戸表――お茶の水の南添いに起伏している駿河台の丘。日ごとに葉をもがれて
が見えて、やがて数十歩で出た所を見廻すと、お茶の水の崖である。
「火の手は上がっていなかったが、お茶の水の森あたりで、ボウ――と、白い煙がのぼった」
「お茶の水、お茶の水――」
「お茶の水、お茶の水――」
の態だったが、やがて、その煙が、人家のないお茶の水の崖ぷちからだと知れて、それッ、怪し火だとばかり、皆その
こもりきッた黒煙が、お茶の水の抜け道へまで噴きだした程であるから、お千絵様のいた密見
ここは、お茶の水の崖を屏風にしているので、火が森を焼き抜いてこ
「お茶の水の上にある組屋敷は?」
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まぶしげな微笑を含んでいる女の半身――見ると蔵前風な丸髷くずしに被布を着て、琴か茶か挿花の師匠でも
炬燵蒲団に、草双紙と三味線に、玉露と栗饅頭。そこに蔵前風な丸髷の美女が、冬の陽ざしを戸閉していたら、誰が
蔵前ふうの丸曲髷に、曙染の被布をきて、手に小風呂敷
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ともいえねえが、見返りお綱という人には、住吉村で助けられた恩義がある。そいつを忘れちゃすまねえからな……
思ったが……果たしてそうじゃ。汝はこの夏頃まで、住吉村のぬきや屋敷にいたお十夜孫兵衛という浪人者だな」
合点がゆかねえが、たったいっぺん……そうだ、住吉村のぬきやの巣にいた時、あいつに踏み込まれたことがある
「いつか、殿にもお話しいたした通り、住吉村で別れまして以来、トンと音沙汰もござりませぬ」
侍――それは、自分がお十夜と一緒に、住吉村のぬきや屋敷にいた時、目明し万吉を救うべく、俵一八郎
住吉村と聞いた刹那に、お綱は初めて、アッと思い当った。今、
度ほど見かけている。一度は大阪表にいた当時、住吉村でそちを見た。また、一度はツイ先日じゃ――おお、駿河台
の夏――、蜂須賀家の原士に斬りこまれて、住吉村を去ったかれは、あれから幾月かを、紀伊の山奥に暮らし
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姿も万吉の姿も、どこに見ることもならず、神田一帯、駿河台の上り口、すべて、人と提灯と火事頭巾と、ばれんと
お十夜、大火だ! 大火だ! しかも火元は神田だそうだ」
「なにしろ、旦那、とても、神田一帯は火の海になりそうな騒ぎです。大概のお屋敷は、見舞
「しかも大火だ、おまけに目ぬきな神田から駿河台、あの辺のお屋敷町まで、この暮へきて焼け野が原
「怒ったってしようがねえやな。お前さん、やっぱり神田かい?」
へつくと、舟の客はわれがちに陸へ上がった。神田大火の噂――駿河台も焼けたという話――などを小耳にはさん
などと、神田界隈では、この大雪に焼け出された人々が路頭に凍えているのも
「なんだか知らないけれど、二人とも、神田で焼け出されて宿なしになったんだから、ここで正月をするって
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川を越えて外神田の一角を焼き、東は勧学坂から小川町の火消屋敷を舐めつくし、丹後殿前の風呂屋町、雉子町あたりの脂粉の町
ッちまうなんて、ばかなことはありますまい。おまけに、小川町にはお火消屋敷があるんですからな」
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なんとも案じられて堪らなくなったかのごとく、品川へかかるやただちに宿役人らしい者の溜りの前に立って、
がしかし、神奈川の浦に立ち、品川の海辺に立って、江戸の姿を眺め、だんだんと御府内へ近づいてゆく
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て、取りまきの湯女のお勘とお千代が、しきりに浅草の景気をそそったので、つい、駕を四つあつらえてしまった。
から千束をぬけてきたとすれば、そこは多分、浅草の観音堂。
といわせて、その身がらを引き取ってくると、ちょうど、浅草寺の闇の中に、お十夜や周馬や一角などが、何か
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川向うは三囲の土手、枕橋から向島はちょうど墨絵の夕べである。宵闇を縫って、チラチラ飛んでゆく駕の
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ぬ微苦笑を笠のうちに隠して、誰よりも大股に上野の山の裾にそって急ぎ足になる――。
「へえ、お旗本の別荘とか、上野の宮様の別院とか、吉原に大店を持っている人の寮だ
上野の森の裏山へ、一発の銃声が、ドーンと木魂返しにひびいて
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四、五町来ると、屏風坂から鶯谷のさびしい山蔭、もう、ここらでよかろうと万吉、
――、お千絵殿の所在が知れたから、至急、鶯谷の古梅庵という料亭までご足労を願いたい――という文意。
「しかし、鶯谷へ出るには、ちと、方角違いな気がするが」
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お江戸日本橋。いつも織るような人どおりだ。
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また、四、五日おきに、幾度となく、ここと大手町との間を往復した。
ひそかに、大手町の松平家をでた女乗物は、左京之介が茶席や閑居にのみ建て
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左京之介が茶席や閑居にのみ建ててある、江戸郊外の代々木荘へ急いでいった。その駕には、狂ったお千絵がのせられ
代々木荘には、前の日から左京之介が滞在し、その朝は、弦之丞と鴻山
代々木荘の密議の半日。午後になって、ようやく何かの諜しあわせが一決
、時折狂いだしまする。で、騒がしいお上屋敷よりは、この代々木荘なれば養生にもよし、人目にもつかぬであろうという、御
両眼へ掌を当てたまま、鼠甲斐絹のかげ寒く、代々木の原を走っていた。
「ゆうべ、弦之丞様が代々木からお帰りなすって、いよいよ阿波へ立つ日も近づいたぞ――と俺
弦之丞は、ふと暗い顔になった。駕から出て、代々木荘の奥へ入ったあの姿が――あの狂わしい声が、まざまざと思い浮かぶ
利用して、わざとこうした手段をとったのは、代々木荘で鴻山と左京之介との相談でやったことだが、一つに
様子をきき、もし、そこで要領を得ないようなら、代々木荘まで行って、常木鴻山に会い、その後の成行きや、また弦之丞の
常木様と三人で、コッソリ相談をきめるとすぐに、代々木荘から夜にまぎれて、甲州街道をお急ぎなすってしまったという話―
あ、常木様のお諭しもきかねえで、ぷいと、代々木を飛びだした帰り途――、これ見てくンな、柳原の吊しん棒で
。そこへ、虎五郎の不慮の死を知ったので、代々木荘から松平家の者をやって、龍泉寺町にすむ御徒士といわ
、後々のことは案ぜられるな。殿も御承知の上、代々木荘で養育して取らせい、とおっしゃられたことでもあるから」
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、国分寺の割印を捺した遍路切手で、それを持って国分寺にゆけば、この三月の中旬に、阿波八十八ヵ所の遍路にのぼる道者
綱の手へ渡した。それは美濃の垂井の宿、国分寺の割印を捺した遍路切手で、それを持って国分寺にゆけば、この
先に江戸を立って行った法月弦之丞も、垂井の国分寺に行って、ひそかに、それへ便乗する用意をしている筈、今
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師走初めの冷たい風が、向う柳原から神田川の水をかすって、ヒュッ――と町の横丁へまで入ってくる。
柳原へ落ちてゆく、神田川の流れらしい。
媛神社の境内であった。枯柳や梅にとり囲まれ、神田川の水にのぞんで、火事をよそに森深と更けている。
がバラバラと降ってくる――。火事はまだまださかんらしい。神田川は夕焼のようだ。
ザ――ッと揚がったのは血けむりではなかった、神田川の水しぶき――。
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所は京橋、桜新道――長沢町の裏あたりである。
も、あの通りな火事騒ぎの中を、背中に掛けて京橋まで歩いちゃ行かれなかった。
まことは使屋の半次といって、周馬や孫兵衛が、京橋の喜撰風呂にごろついている間に、手馴ずけられたあぶれ者。
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と、手を引っ張って、人気のない所へしゃがみこんだ。隅田川の西河岸である。
下には堀の水がゆるやかに流れていた。隅田川から入ってくる猪牙舟や屋形船が夜寒の灯を伏せて漕ぎぬけてゆく