八寒道中 / 吉川英治
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「おのれの面と声がらに覚えがある、伊勢の松坂で拙者の枕元を探った、胡麻の蠅の仙吉だな」
「あっしも、その昔、伊勢の松坂でこッぴどく懲らされた旦那だとは夢にも知りませんから
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郡内の長脇差で、鮎川の仁介というものがある。この甲州では有名な博奕うちでな、その、身内どもが、先ごろ御岳へ参っ
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「郡内の長脇差で、鮎川の仁介というものがある。この甲州では有名な博奕うちでな、その
を通る浪人などは、鳥沢の宿に泊まらずに、たいがい鮎川の部屋へ行くそうだが」
その後へ、しびれをきらした鮎川の乾分の一部が、忍びやかに、賛之丞のいる部屋へ寄った。
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が寒の明けだと道で聞いたが、左に見る岩殿山のヒダにはまだ深い雪がいつ消えそうもなく光って見え、往来の樹木
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それは、桑名の城下で、すすけた古物屋の店ざらしの中から見つけ出した笛だった
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に思ったが、あとで聞くと、領主の柳沢吉保が江戸から連れて来たもので、春日流の宗家に縁のある人だと聞い
「そりゃあ、元より極まったお話です。あのお稲は、江戸から流れて来た旅芸者で郡内の甲斐絹屋へかたづいたのを、淫奔な
通って、下鳥沢へ下ろうかと思います。で、ひとまず江戸の方へでも」
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だと敬服した。どうしてこんな笛師が、この甲府などにいたろうかと不審に思ったが、あとで聞くと、領主の
うけておきたい。彼はそう思って、通りすぎるはずの甲府に滞在して二十日ばかり平六の家へ通っていた。――する
五兵衛の心を知らない力みかたであった。だが、甲府にいるのも工合がわるいし、餞別までうけたので、彼は、
上方路を経て来た眼のせいか、甲府の女は肌があらいと思ったが、この女は、一見してそう
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時分から、三五兵衛の性格は今とあまり変化はない。和歌山の家中でも、ひとりの友をも持たなかった。妻をと、すすめる
旅へ立った時、それ出たぞというように、和歌山の者は言い合った。
ばいつでも討てる――そんな人間を早速に討って、和歌山へ帰って、目出度がられて、おれは満足になり得るだろうか。その
「いや、おれだって、和歌山にいた頃は、藩の指南へ通って相当に竹刀ダコをこしらえた