ロンドン 薩摩 九州 島原 平戸 博多 香港 佐世保 佐賀 長崎 熊本 東京

ロンドン

松葉牡丹のことをわが地方にてロンドンと呼びならはしぬ。その韻いまもわすれず。

恐怖と光にロンドン咲く。

血のごとく赤きロンドン。

血のごとく赤きロンドン。

ロンドンに

われはただロンドンに

たのである。從て濱に出ると平戸、五島、薩摩、天草、長崎等の船が無鹽、鹽魚、鯨、南瓜、西瓜、たまに

さうな、そして流暢な、軟かみのある語韻の九州には珍らしいほど京都風なのに阿蘭陀訛の溶け込んだ夕暮のささやきばかりがなつかしい。

勞と疲憊の末、柳河の「油屋」として、九州の古問屋として數代知られた舊家も遂には一家沒落の憂き目

私はまた五島平土の船頭衆から長崎や島原の歌も聞いた。年の師走には市が立つてそれらの珍客を

知られてゐたのである。從て濱に出ると平戸、五島、薩摩、天草、長崎等の船が無鹽、鹽魚、鯨、南瓜

秋のお祭がすみ、立つてゆく博多二〇加のあとから

なつかしい長崎か、香港の入江か、葡萄牙？佛蘭西？

て了つた。さうして食ひつめものの商人は門司、佐世保、大牟田などの新らしい繁華を慕ふて奔り、金齒入れた高利貸は朝鮮に

しい影を映す。肥後路より、或は久留米路より、或は佐賀より筑後川の流を超えて、わが街に入り來る旅びとはその周圍の

。從て濱に出ると平戸、五島、薩摩、天草、長崎等の船が無鹽、鹽魚、鯨、南瓜、西瓜、たまには鵞鳥、

西洋の香に噎ばしめたであらう。さうしてその翌年長崎旅行の途次汽車の窓から見た大村灣の風光は實にかの繪

として、その前後に催さるる入船出船の酒宴には長崎の紅い三尺手拭を鉢卷にして、琉球節を唄ふ放恣に

私はまた五島平土の船頭衆から長崎や島原の歌も聞いた。年の師走には市が立つてそれら

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の、長崎の

長崎の異人屋敷の棕梠の花、

長崎の繪はかかりたり、――

魔法と、長崎と、和蘭陀の風景に

なつかしい長崎か、香港の入江か、葡萄牙？佛蘭西？

夜になれば一番年のわかい熊本英語學校出の叔父がゆめのやうなその天守の欄干に出てよく笛

に「邪宗門」の象徴詩を公にし、今はまた「東京景物詩」の製作にも從ふてゐる。從てその一面をのみ觀て

斷章」のやうな仄かな藝術品が「邪宗門」や「東京景物詩」やその他の異なつた象徴詩の間にも、なほ純なる

見せるやうに容易く蘇らせる事は不可能であらう。ただ偶々に東京がへりの若い齒科醫がその窓の障子に氣まぐれな紅い硝子を入れ

さうして若鷲の巣立ちを思はせるやうに忙たゞしく東京をさして上つた。

しながら遠洋漁業の途にのぼるかして、わかい子弟の東京へゆくものさへ、誰一人この因循な故郷に歸らうとはせぬ。

東京にて。

夏のゆく日の東京に