伊勢 箱根 名古屋 鈴鹿 小牧山 名古屋市 御嶽 伊吹山 伊吹

西は渺々たる伊勢の海を眼界の外に霞ませて、河口へ到る石舟の白帆は風を

オムレツの上にのぞんで、決して自分を取り乱さなかつた。箱根の嶮路にかかつて、後部の大きな硝子戸に、汽関車がぴつたりと

この子はそれこそひとりで大喜びであつた。その夕方、名古屋の親戚の家の玄関に立つた時にも、別に鼻白みもしなかつ

彩雲閣へ戻ると、小坊主は直ぐと名古屋へ帰ると言ひ出した。名古屋の伯母さんは、昨夜この子の母に長距離

戻ると、小坊主は直ぐと名古屋へ帰ると言ひ出した。名古屋の伯母さんは、昨夜この子の母に長距離の電話をかけてゐた。

続いて西へと連るのは多度の山脈である。鈴鹿は幽かに、伊吹は未だに吹きあげる風雲の猪色にその山頂を吹き乱されて

した曇天光まで続いて、ただ一つの巒色の濃い小牧山が低く小さく欝屈してゐるその左に、髣髴として立つ紫の幻塔

あの冬の名古屋市はまつたく恐怖と寒気とで、その繁華な、心臓の鼓動も停りさうで

掻き乱されてゐる。鮮麗な電光飾の耀く二時間前の名古屋市である。

そのすばらしい白と金との向うに恵那、駒ヶ嶽、御嶽の諸峰が競つて天を摩してゐるといふのだ。見えざる山岳の

した、それは恐らく驟雨の最中であるであらうところの伊吹山のあたりまでバックに、ひろびろと霞んだ、うち展けた平野の青田も眺められ

連るのは多度の山脈である。鈴鹿は幽かに、伊吹は未だに吹きあげる風雲の猪色にその山頂を吹き乱されてゐる。