ロンドン 八丁堀 霞が関 筑後 江戸 武蔵野 樺太 両国 日比谷公園 小石川の植物園 巴里 長崎 東京 浅草 銀座 目白 品川 新橋 市ヶ谷 日比谷 代々木

ロンドンの悲しき言葉耳にあり花赤ければ命短し

いと高き君がよき名ぞ忍ばるる赤きロンドン赤きロンドン

いと高き君がよき名ぞ忍ばるる赤きロンドン赤きロンドン

狂ほしく髪かきむしり昼ひねもすロンドンの紅をひとり凝視むる

縫針の娘たれかれおとなしくロンドンの花を踏みて帰るも

ロンドンは松葉牡丹の柳河語なり

な暑い日だつた……苦しさ紛れに飛び込んだあの汚い八丁堀の大路次亭では見るからに貧乏臭い痩せぎすの講釈師が頓狂に顔を顰め

馬車霞が関を過ぐ

に欺された旗本の野呂馬息子が歯噛みをする。「筑後の柳河ださうで。」「筑後の柳河ア。」口惜しさうに声が泣き

が歯噛みをする。「筑後の柳河ださうで。」「筑後の柳河ア。」口惜しさうに声が泣き出す。「へえ、大分遠方で、

えつへつへ。」さうだ、如何にも俺の故郷は筑後の柳河だ、それがどうした。笑ふにも笑はれない、何と

定斎の軋みせはしく橋わたる江戸の横網鶯の啼く

武蔵野のだんだん畑の唐辛子いまあかあかと刈り干しにけれ

せいぜい十人か十一人に極つてゐる、さうだあんな罪人は樺太にでも追放したがいい」汝は顔を真蒼にして顫へた

両国

懐かしむこともある。しかし私には白昼夏の光のふりそそぐ日比谷公園の音楽堂の上に、凡ての満足と充実した凡ての生の歓喜と

石花も、空色のロベリヤももうみんな枯れてしまつて、小石川の植物園に新たに茴香の花の咲く時節が来た。梧桐のかげに客待

ああ笛鳴る思ひいづるはパノラマの巴里の空の春の夜の月

声が泣き出す。「へえ、大分遠方で、何でも長崎の傍ださうで、えつへつへ。」さうだ、如何にも俺の

と冷めたい吹笛の哀音を思ひ出す。五月がきて東京の西洋料理店の階上にさはやかな夏帽子の淡青い麦稈のにほひが染み

客待の人力車のかげに仄かに蒼白いお尻のパツチを光らす東京の蛍をこの上なく今の心に親しむ。さりながら凡ての因襲から逃れ

あかしやの花ふり落す月は来ぬ東京の雨わたくしの雨

浅草にて

浅草聖天横丁

浅草にて

ので、急に俺は不愉快になつて、その足で浅草の活動写真見に飛んで行つて了つた。

これがこの二月に浅草で友達を殺した男の声かと思ふと、何となく変な、

を凝視めてゐる。窖のやうな入口からくわつと明るい銀座の通が見える、白日の輝き、濡れた舗石、柳の葉、そのかげ

銀座

いちはやく冬のマントをひきまはし銀座いそげばふる霙かな

よしやあしや君が銀座の入日ぞらほのかに暮れて夜となりにける

梧桐のかげに客待をしてゐる人力車夫にも、銀座の横町に荷を下すバナナ売の半纏にも硝子屋の白い斜面の日覆

絹糸のもつれをかたよせて、私はまた久し振りに、あの銀座の青い柳のかげの白い瀟洒な喫茶店の椅子に寂しい孤独の身をなげかけ

、馬車や自働車の燈のくるめき、電車の鐸――銀座の二丁目から三丁目にかけて例も見馴れた浅はかな喧騒の市街

なほ鮮かな Stranger の驚異と感触を貴み、目白僧園の鐘の音にアベマリヤの晩鐘を忍ぶ以太利亜旅人の春愁を

歎けとていまはた目白僧園の夕の鐘も鳴りいでにけむ

木の枝に青き小鳥のとまりゐてただほれぼれと鳴ける品川

新橋

市ヶ谷の逢魔が時となりにけりあかんぼの泣く梟の啼く

さりながらあの市ヶ谷の監獄生活は誠に貴い省察と静思との時間を汝に与へたと

喨々とひとすぢの水吹きいでたり冬の日比谷の鶴のくちばし

代々木の青※がもとに飛びありく白栗鼠のごとく二人抱きし

充分の不可思議性を秘して居た、縦へ、それが代々木の草原を飛びあるく白栗鼠の児のやうに或は陋しく或は軽浮で