鎌倉 東京

心を私の心と共に躍らせようとするのは、鎌倉の大佛さんを搖り動さうとするのに同じだと、私はひそかに

も先づ、友達や知己に逢へるのを喜び期待して東京に歸りました。

かつたけれど、いろいろ生活上の都合もあり、またひそかに東京を戀しがつてゐた私の影響、があなたをさう動したの

大抵一度私の口から出ました。それは、私達が東京を留守にした間に、彼に出來た戀人の名前で、彼

のことを心配してるのですつて、そしてね、そんな東京なんぞにゐるから病氣になぞなるんだつていつてね、來い來いつ

私は間もなく、私のすきだつた東京を見捨てゝ田舍に去りました。あなたは何事も知らずにその通知

いふしづかなうなづきとを得たのでした。その前後全く東京を離れて私に附き添つてゐたあなたも、彼のこの遙々な訪問

降つてゐました。それは十二月のなかば、その日東京から着いたあなたの顏色は沈んでゐました。さうして私を見る

外套を脱ぐ時の横顏をぢつと見て、何事かゞ東京にあつたのを知りました。そしてそれが必ずＡと私との事