箱根 熊野 興福院 金戒光明寺 叡山 四天王寺 難波 知恩院 高野山 比叡 奈良 山形 上野

で、俄かに情熱らしいものが出て來て、年の暮れに箱根、年あけて伊豆大仁などに籠つて書いたのが、大部分であつた

波にあくがれて海深く沈んで行つたのであつた。熊野では、これと同じ事を、普陀落渡海と言うた。觀音の淨土

代表作なる、高野山の廿五菩薩來迎圖にしても、興福院の來迎圖にしても、知恩院の阿彌陀十體像にしても、

がないではないのが寂しい。何と言つても、金戒光明寺のは、傳來正しいらしいだけに、他の山越し像を壓する品格がある

後出を思はせる發展がある。併し畫風から見て、金戒光明寺のよりも、幾分古いものと、凡判斷せられて居る。さすれば兩者

ものゝ分出と見ることが出來る。但中尊の相好は、金戒光明寺のよりも、粗朴であり、而も線の柔軟はあるが、脇士・梵天

味あひが出てゐる。容貌の點から言ふと、金戒光明寺の方が遙かに美男らしいが、直線感の多い描線に圍まれたゞけに

二上山形に岐れてゐる事も、此圖に一等著しい。金戒光明寺の來迎圖は、唯の山の端を描いたばかりだし、其から後のもの

た相好とすれば、三尊佛の背景に當るものは叡山東方の空であり、又琵琶の湖が豫想せられてゐるもの、と

山越し像についての傳へは、前に述べた叡山側の説は、山中不二峰において感得したものと言はれてゐる

僧都が感得したと言ふのは、其でよい。たゞ叡山横川において想見したとの傳説は傳説としての意味は

しかも尚、四天王寺には、古くは、日想觀往生と謂はれる風習があつて、多くの

極樂の東門に　向ふ難波の西の海　入り日の影も　舞ふとかや

にしても、興福院の來迎圖にしても、知恩院の阿彌陀十體像にしても、皆山から來向ふ迅雲に乘つた姿

はないといへる。其が山越し像を通過すると、知恩院の阿彌陀二十五菩薩來迎像の樣な、寫實風な山から家へ降る迅雲

慧心の代表作なる、高野山の廿五菩薩來迎圖にしても、興福院の來迎圖にしても

一體、山越し阿彌陀像は比叡の横川で、僧都自ら感得したものと傳へられてゐる。眞作の存せぬ

な遺物があるからである。ところが、此經は、奈良朝だけのことではなかつた。平安の京になつても、慧心

の描寫が亦、最異色に富んで居る。峰の二上山形に岐れてゐる事も、此圖に一等著しい。金戒光明寺の來迎圖

に關係なく、山肌の上を降つて來る樣に見える。上野家や川崎家のでは、今も言つた來迎の山を「二上」

背後にした聖衆の動靜に來迎圖離れの感じられる上野氏の物、特に後者は、阿彌陀の立像を膝元近くで書いたところに

上野家藏のも相好の美しさ、中尊の姿態の寫實において優れて