万葉集の解題 / 折口信夫
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飛鳥
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起つた。是は日本の古い書物を見ると、大体古い飛鳥の都、即、舒明天皇・皇極天皇の頃からはつきりと現れて来るやう
奈良
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―万葉集の歌の出来た順序に就ての解説は当然、奈良朝までの日本古代の完全な文学史になるのである。
と発達した。平安朝の文学史は散文の文学史で、奈良朝から以前の文学史は律文の文学史である。だから、律文の
唯一の文学で、散文は後に生れたものである。奈良朝も頂上に到つた頃に散文が現れて居るが、十分の発育
である。だから万葉集に見えて居るものゝ中で、奈良朝以前の歌は、代作の歌が多いと思つてよい。万葉集を見る
の感情が醇化せられて、新抒情詩が発生した。奈良朝の頂上になると、大伴旅人・山上憶良が、殊に有力に見える。
純粋の抒情詩は、其本人の感情が鍛錬された奈良朝時代に入つてからである。即、鍛錬されたものは、一方
奈良朝には、短歌の形が主となつたので、新作の大歌に
つてほんとうの恋愛詩を生む。日本の恋愛詩は、奈良朝の初めになつて、純抒情詩となつた。人麻呂の恋愛詩にも
純抒情詩の時代は、平安朝へ這入つてからである。奈良朝の抒情詩が、在原業平に系統を引いて、純粋の抒情詩になつた
つたものではなからうかと思はれる。つまり、抒情詩は、奈良朝の盛んな時代より出来て来るが、純抒情詩の時代は、平安朝