顎十郎捕物帳 13 遠島船 / 久生十蘭
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た運上金、馬つきできたやつを十人の送り同心もろとも箱根の宮城野ですりかえて一万二千両。……このへんは序の口で、まだまだ後がある
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――これが、文久二年四月十七日、相模灘に起った遠島御用船、三崎丸の事件。
もないことを。……弥之助は、十九日の朝がた、相模灘でゆくえ知れずになってしまいました。つまらない冗談はよしてくださいまし」
くくりつけ、追風に吹かせて真南へつっぱなせば、船はひとりでに相模灘へ出て行く、まかり間違って伊豆の岸へでもぶっつかって沈んだら、それはそれ
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伊豆七島へ差しおくる囚人が七人。役人は、御船手、水主同心森田三之丞以下五人
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と一ノ橋をわたって両国のほうへ引っかえし、相生町の『はなや』という川魚料理。座敷へ通って紙と筆を借り、
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の風も吹きつけない。灯台もと暗しとはこのこと。伊豆の田浦岬の二十四五里の沖あいで行きがた知れずになった十一
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ほどになって相模灘を突っ走る。八挺櫓で飛ばしてくる江戸の鰹買船に三崎の沖あたりで行きあうつもり。
三番船梁に打ちつけてある廻送板を見ると、最後に江戸を出帆したのが、四月十五日としるされてある。ちょうど二日
、板壁の釘にかかっていた送り帳を見ると、江戸を出るとき、この船にはたしかに二十三人の人間が乗っていた。
番所からは取るものも取りあえず用船を出して取調べた上、江戸まで三崎丸を曳船してきて当時のままのありさまで船蔵におさめてある
ば船頭一同は百たたきの上、ながの遠島、女房子供は江戸かまえ。……そういう弱味につけこまれて、心ならずも伏鐘一味の
「ところは江戸のうち。……水に縁のあるところ。中洲でもなし川岸でもなし
の砲台でもない。すると、これは島ですな。江戸に島と名のつくところは、そう数はない。越中島、……佃島…
そんなびっくりした顔をなさらなくともよござんす。……江戸のうちでお上の袖がこいの中につつまれて安穏に世を忍べるところ
を見たとたん、十一人のうち、少なくとも弥之助だけは江戸にいるという見こみがついたわけだ」
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突っ走る。八挺櫓で飛ばしてくる江戸の鰹買船に三崎の沖あたりで行きあうつもり。
十七日の朝、鰹船が三崎の番所へ事件の顛末をうったえでると、番所からは取るものも取りあえず用船を
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手掛りもなく、ぼんやりと御船蔵を出てきた。これから両国の『坊主軍鶏』へでも行って昼飯にしようというつもり。
両国広小路の『坊主軍鶏』。ほどのいい小座敷をたのんで軍鶏をあつらえる。
、ツイと金兵衛の門口からはなれると一ノ橋をわたって両国のほうへ引っかえし、相生町の『はなや』という川魚料理。座敷へ通って紙
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深川千歳町の水戸さまの石置場から始まって新大橋のたもとまで、三丁の川岸っぷち
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「それはそうと、おれは甲府から出てきたばかりの山猿で、船送りなんてえものを見たこと
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は佐竹の御金蔵をやぶって六千両。安政元年には長崎会所から送られた運上金、馬つきできたやつを十人の送り同心もろとも
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深川千歳町の水戸さまの石置場から始まって新大橋のたもとまで、三丁
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四月十五日としるされてある。ちょうど二日前に品川をでた船。
しあわせて間違いがないとなると、艀舟に乗せて品川沖の遠島船へまで送りとどける。……艀舟へ乗せるわずかの暇に見おくり
「なるほど。……それで南と北の与力同心は品川沖の親船までおくって行くのか」
あるところ。中洲でもなし川岸でもなし、と言って品川の砲台でもない。すると、これは島ですな。江戸に島と
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深川千歳町の水戸さまの石置場から始まって新大橋のたもとまで、三丁の川岸っぷちにそって大小十四棟の御船蔵
植溜から灰会所のかどを曲って新大橋のたもとまで来かかると、なにを思ったか、顎十郎は、急に口
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の与力と同心がおのおの二人ずつ八人がつきそって御浜か永代橋、さもなければ蠣店か新堀、そのどこかの河岸まで持って行きますと
「いいえ、そうじゃありません。御浜なり永代橋なりで艀舟へ乗せると、奉行所の手をはなれて御船手役人の手に
送り同心は蠣店でわたしたといい、御船手役人のほうは永代橋でうけとったとこういうンです。……渡したほうとも受けとったほう
一味……いっぽう御船手役人のほうは、手はずどおり、永代橋で待っていると、送り役人がついて七つの軍鶏籠が来た
の一味が与力か同心に化けて伝馬町の牢屋敷に行き、永代橋でお受けわたしするはずだったが、急に蠣店にかわったから、ちょっとお