香港 マニラ 仙洞御所 松濤 鎌倉 赤坂 佐世保 ロングアイランド 名古屋 ワシントン 富士山 関西 ハワイ 十条 上野の動物園 京都 千葉 奈良 渋谷 巣鴨 東京 銀座 目黒 新橋 日比谷 上野 浅草 代々木

ワニちゃんこと、エルマンという南方の暑い島の人が、香港へ高飛びしそこなって、次の便待ちをしながら、ずっと洋館の二階に

ないことだが、それはそれとして、ワニ氏が香港へ飛ぶ寸前に捕まったのは、石田家にとっても、千々子さまに

「シュラーというのは、千々子さまを欺して、香港へ連れて行こうとした、あの鳶色の先生のことですか」

という悪いやつがいて、あんたらに検挙られて、マニラへ送還されたが、あれは純粋なポリネシアやから、誰が豚を飼っ

したりするものではありません。出鱈目をいうなら、マニラにいるくらいのことでもいって、恍けておきなさい」

唐草模様の鋳金の鉄扉のついた大きな石門のむこうに、仙洞御所のような御所造りの屋根が見えるという、奇妙な家だった。

ならないように、しっかりと遺産法で縛られている。仙洞御所のような大名屋敷に、明治風のバカでかい洋館を継ぎたした、この一種

渋谷の松濤に住んでいる、なにやら省の頓狂な高級官吏が、占領さなかの合衆国独立

「鎌倉のなにやら氏の家は、ひどいボロ家だったそうですが、根太からぶち

いま電話で流麗と話しかけているのは、赤坂とか新橋とか、そういったところの一流に近いひと……さもなければ

する。ジョージが根拠地隊付になったので、いっしょに佐世保へ行く。この写真は、記念のために差しあげます、と書いてあった。

もんでさ。十四年の春に、招待されて、ロングアイランドのシュラーの別荘に行ったことがあるが、二千エーカーもある原野のような

「ロングアイランドにあるシュラーの家が、ちょうど、あんなぐあいになっているのだそうで…

ボルネオに居り、かくいう次女の百々子は、徴用で行った名古屋の工場で、冬まで寝こんでしまい、渋谷の奥のバラックの借家で、一家

六月某日は、ワシントンの白堊館だか議事堂だかの落成記念日だということだったが、この

のあったところにテックスの間仕切りができ、ぞっとするような富士山の油絵がかかっていた。

ひとが死んだ。七月十日から雨が降りだし、関西では大水が出たが、蛇腹壁を高くまわした石田家の洋館の平屋根

ヘンリ清水にたずねると、明日あたり、ハワイに着くはずだとか、着くところだとか、とりとめのないことを口走り、

わが賢夫人なる十条賢子さまは、前の関白左大臣という、古今集のなかにでもいそうな、京都の

たずねると、今日は国会図書館だよ、とか、今日は上野の動物園だ、とかと、こっそりと百々子にささやきかえす。

大臣という、古今集のなかにでもいそうな、京都のおちぶれ華族の末流の出で、うちのパパより先に、石田与惣兵衛の

ような悲愴な顔で、さっき町へ行ったとか、千葉まで買物にとか、ささやくような声でつぶやいていたが、いまに

、夕食なしの朝昼二食……それも、朝は奈良茶粥に胡麻塩、昼は一汁一菜に麦飯という、切りつめた食例の

春雨の降る四月の暗い日曜日の朝、渋谷の奥にあるバラックの玄関の土間に、接収解除通知のハガキが、音

徴用で行った名古屋の工場で、冬まで寝こんでしまい、渋谷の奥のバラックの借家で、一家五人の顔が合ったのは、

接収されたと聞いたのは、わが石田一家が、渋谷の奥のバラックでまとまりをつけてから、半年ほど後のことだったが

という『アメリカの家賃』をもらいながら、物価の安い、渋谷の奥の三間きりのバラックに住み、『男、褌に、女、

わが家の楽園のある向山町は、目黒と境を接する渋谷のどんづまりで、空襲で焼けたあとへ、簡易住宅とバラックが、西向きやら

、わが石田の一家五人は、いいつくせぬ思い出のある渋谷のバラックを出て、麻布市兵衛町の家に復帰した。

自白によって、ようやく事実を承知したほどだから、渋谷の奥にある、十戸ばかりのバラックを差配して、歯ぬけ謡をうなる

、麻布の家における、わが石田家の日常は、渋谷のバラック生活の伝統をそのままひきついだ、なんの変哲もないものだった

調理台のうえにおさまったが、あえなくそこからひき戻され、渋谷のバラックの縁側にあたるくらいの場所に、うやむやのうちに腰を据えて

まァ、いつまで、そんながらくたをいじくりまわしているんです？　渋谷の生活とちがうんですから、あまりぐだぐだしないでちょうだい」

、賢夫人と千々子さまは、そういうたぐいの人柄で、渋谷の奥に住むようになってから、いよいよ、わからない感じが強くなった

でもなかった。われわれには、楽園とも思われた渋谷のバラック住いは、千々子さまにとっては、地獄以上の苦痛だった

た床へ、いきなりチャブ台を据えるのは、どんなもんでしょう。渋谷のバラックならともかく、こういった式にできている家ですから、やはり、

「それはそうでしょうとも。終戦から七年の間、渋谷のバラックで、ギスギスした生活をして来ましたが、あたしにし

捌けばええのか、わからんようなのがある……渋谷のさる住宅の話ですが、池に飼っていた、一匹、時価

の洋館をシュラーに貸してやってください……この間、渋谷のお宅へ伺って、奥さんのご内諾を得ましたが、最後のところ

は、じぶんから附添いを買って出て、半年ばかり、渋谷のバラックに帰らなかったことがある。かくいう百々子は、そのころ学校が

渋谷の松濤に住んでいる、なにやら省の頓狂な高級官吏が、占領さなか

時計仕掛けの開閉装置も、たいした実益はなさそうだが、渋谷のバラックでは、鮫を焼くたびに、一人がそばにいて、おしっこ

石田家の一家五人が、渋谷の奥のバラックの楽園を出て、先行不案内のまま、麻布の古邸に

た、この朴訥すぎる顔を忘れるわけがない。石田一家が渋谷の向山町にいるとき、露地の奥のバラックに一人で住んでいた

は、麻布の家に見切りをつけて、春までいた渋谷の奥のバラックに復帰した。

「千々子さま、あたしたち、渋谷のバラックへ帰ったのよ。あなたは面白くないでしょうけど、こうするほうが

背の高いひとが二人も坐っているのを見ると、巣鴨の監房の中だと勘ちがいしたらしく、

「ここは巣鴨ではないから、ご心配なく……あなたは脳溢血で倒れたので、

「ここは巣鴨ですか」には、笑わぬものはなく、石田は見かけ倒しの臆病もの

長女の千々子さまは、葬式の手続きのため、匆々、東京へ転入したが、当主たる石田九万吉氏は、現職のまま海軍民政

、雪の日も風の日も、折鞄を抱えて、東京の都内をあてもなく歩きまわるのは、さぞ骨の折れることだろうと同情

ご長男の附添いで行っていられて、ときどき買物に東京へ出てくるのを、シュラーがよく自動車で迎いに行くのを見た

と思えば、帝国ホテルを借切ることだって出来るのに、東京にいるあいだ、この古ぼけた洋館を宿にしたいなんていうのは、まこと

にしていたので、賢夫人の諒解のもとに、東京へ出てきては、借家人のシュラー氏といいくらいに遊び歩いていたと

正直にぶちまけますが、ハークネスは、一週間も前に、東京に来ているんです」

……入国管理局から、あたしのところへ、シュラー・ハークネスの東京の住所の問合せがあったんだから、これ以上、たしかな話はない

「でも、一週間も前に東京に着いていながら、千々子のところへ顔を見せないのは、なぜ

お話をうかがっていると、シュラーが一週間も前から東京にいることを、まるっきりごぞんじなかったみたいだけど、そうなんですか

の進退を決する高級官吏試験さえ、いっこうにおどろかず、地下鉄銀座の入口で、『官吏試験集』というあやしげな虎の巻を買ってき

「今日、宴会の流れで、なんとかいう銀座の大きなキャバレへ行った。五百人からの若い女が、広くもない客席

の女のひとが、目の青い黒毛の子供を連れ、銀座のしかるべき四つ角に立っていて、ＧＩが通りかかると、そっと子供を前

わが家の楽園のある向山町は、目黒と境を接する渋谷のどんづまりで、空襲で焼けたあとへ、簡易住宅と

いま電話で流麗と話しかけているのは、赤坂とか新橋とか、そういったところの一流に近いひと……さもなければ、よく

で、朝昼、二度の用を足すほかなくなった。日比谷の外食券食堂で雑粉入りのスイトンを一丼とって汁だけ飲み、汁の

たずねると、今日は国会図書館だよ、とか、今日は上野の動物園だ、とかと、こっそりと百々子にささやきかえす。

たのは、わかりっこないので困ります。これも、上野の乳児園行きでしょう」

「この前の捨子も、警察にたのんで、上野の幼児園へやってもらった。どのみち、われわれの手に合わないんだ

ことだろうと同情していたが、行先に困って、浅草でストリップを見るほどの悲境におちていたとは、思いもしなかっ

「この春までは、代々木のワシントン・ハイツにある、日本人管理事務所の労務部婦人部長……二千