札幌 / 石川啄木
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になつて、急には立ちさうにもない。何しろ、北海道へ渡つて漸々四ヶ月、内地(と彼地ではいふ。)から家族を
恁くして北海道の奥深く入つて行くのだ。恁くして、或者は自然と、或者
同志で、内地の人の知らぬ劇しい戦ひを戦つてゐる北海道の生活の、だん/\底へと入つて行くのだ――といふ感じ
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札幌
にふれてしみ/″\思出される土地の多い中に、札幌の二週間ほど、慌しい様な懐しい記憶を私の心に残した土地は無い
私が初めて札幌に行つたのは明治四十年の秋風の立初めた頃である。――
遣り、二三度手紙や電報の往復があつて、私は札幌の××新聞に行く事に決つた。条件は余り宜くなかつたが、
た頃で、其等の者が続々入込んだ為に、札幌にも小樽にも既う一軒の貸家も無いといふ噂もあり、且
を締直して遣つてゐる母親もあつた。既う札幌に着くのかと思つて、時計を見ると一時を五分過ぎてゐた
君等の行動が解らん様では、これで君、札幌はいくら狭くつても新聞記者の招牌は出されないからね。』
札幌の秋の夜はしめやかであつた。其辺は既う場末の、通り少なき
がある。その人が今編輯局編成の任を帯びて札幌に来てゐる。実は僕にも間接に話があつたので、今日
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の余裕も無しするから、家族は私の後から一先づ小樽にゐた姉の許へ引上げる事にした。
、其等の者が続々入込んだ為に、札幌にも小樽にも既う一軒の貸家も無いといふ噂もあり、且は又
ない混雑で、私は一夜車室の隅に立ち明した。小樽で下車して、姉の家で朝飯を喫め、三時間許りも仮寝を
翌暁小樽に着く迄は、腰下す席もない混雑で、私は一夜車室の隅
、私の妻が来た。既う函館からは引上げて小樽に来てゐるのであるが、さう何時までも姉の家に厄介に
帰つて来た時は、小樽へ帰る私の妻を停車場まで見送りに行つた真佐子も、今し方帰つた許り
た話は次の様なことであつた。――今度小樽に新らしい新聞が出来る。出資者はY――氏といふ名の有る事業家で
よりは条件も可ささうだ。それに君は家族が小樽に居るんだから都合が可いだらうと思ふんだ。』