忘恩 / 田中貢太郎
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馬廻り位であったらしいがたしかなことは判らない。その大塚は至って殺生好きで、狩猟期になると何時も銃を肩にして出かけて
土佐の侍で大塚と云う者があった。格はお馬廻り位であったらしいがたしかな
などを植えた切畑が谷の入口に見えていた。大塚はその山畑の間の小径を通って、色づいた雑木に夕陽の燃えついた
たが、兎は何処へ往ったかもう見えなかった。大塚は銃を控えて右を見たり左を見たり、また木の下方を
飛びだして大塚の前を横切って走った。獲物を見つけた大塚は、肩にしていた銃をそそくさとおろして撃とうとしたが
一匹の灰色の兎が草の中から飛びだして大塚の前を横切って走った。獲物を見つけた大塚は、肩にして
大塚はこんなことを云いながら歩きだした。彼は今朝早くから谷から谷を
たものであろう、二丈余りある深い山井戸であった。大塚は驚いて微暗い穴の中を見廻した。幸いにしてこぼれ土の
大塚は谷の窪地の隅になった処へまで往った。山畑はそこで
大塚は苔の生えた穴の周囲に注意したが、手掛りにするような
大塚は肩にしていた銃をおろし、土に背をもたし腕組みして
大塚はがっかりしたように云った。覗いていた赤い顔がきゃっきゃっと二三
も吹いているようなどうどうと云う音であった。大塚はまた眼を開けて井戸の口の方を見た。
死後のことをそれからそれへと考えていた。その大塚の耳に微な音が入って来た。井戸の口のあたりで風
大塚はまた腕を組んで考え込んだ。彼はまた己の死後のことをそれ
とした。枝屑は首筋にも当って落ちた。大塚はまた眼を開けた。一匹の獣が井戸の上を飛び越えた。
一掴みばかりの枝屑がぱらぱらと落ちて来た。大塚は顔を伏せてその塵を眼に入れまいとした。枝屑は
大塚はこう思いながらちょっとまた眼をつむって考えた。
大塚はもう自殺するより他に道が無いと決心した。決心したもの
大塚は穴の上の方を喜びに満ちた眼で見あげた。赤い顔が
藤葛はもう二丈余りもさがって大塚の頭へ届きそうになって来た。
は井戸の口にいる彼の大猿の叫びであった。大塚は手拭を出して二重になった藤葛を縛りつけそれが済むと両手を
おりて来た。大猿の顔はまだ見えていた。大塚はその藤葛を手にしてその端を帯に差してそれを折り返した
大塚はおろしてあった銃を肩にかけて藤葛の手比になるのを
大塚は身がまえしながら疑っていた。と、藤葛が張りあって来た。やがて
大塚の身体は刻々に上へ上へあげられた。大塚は一生懸命に藤葛にすがっていた。そうして、二丈余りも上へ
大塚の身体は刻々に上へ上へあげられた。大塚は一生懸命に藤葛に
らしい白毛の大猿が、すぐ横手の草の上に坐って大塚の方を見ていた。
見えると猿どもは藤葛を捨ててそのあたりへ散らばった。大塚はその数多な猿を見て驚いた。その驚きとともに猿に対する
根元に仕掛けた藤葛へすがりついてそれを引っ張っていた。大塚の姿が見えると猿どもは藤葛を捨ててそのあたりへ散らばった。大塚
大塚はその大猿に注意を向けた。大塚は台尻に巻いた火縄に注意した。微に火が残っていた
大塚はその大猿に注意を向けた。大塚は台尻に巻いた火縄に注意し
残忍な大塚は大恩ある猿を獲物にして己の家へ帰って来た。帰っ
大塚は古井戸に落ちた話から、猿に扶けられた話を女房や婢など
大塚は鬼魅悪い声を立てて引っくりかえった。
大塚はその夜から病気になって、「猿が、猿が」と叫んで
この大塚家では代々猿と云うことを口にしなかった。もし、それを