甲州 小石川 九州 月島 東京 小諸 大塚 新宿 京橋

先づ甲州に入り、次いで信州に※つたところ、運わるく小諸町で病氣に罹つた。

年ばかりも郷里に留り、大正二年六月上京して小石川の大塚窪町にさゝやかな一戸を構へた。その時はもう長男が生れ

折、其處へ小生の郷里から父危篤の電報が來て九州の日向まで歸らねばならぬことになつた。病氣は中風で次第に永

永旅もまたイヤになつて東京へ引返して來、當時月島の端に長屋住居をしてゐた佐藤緑葉君の家に身を寄せ

た氣持で、折角企てた永旅もまたイヤになつて東京へ引返して來、當時月島の端に長屋住居をしてゐた佐藤緑葉

先づ甲州に入り、次いで信州に※つたところ、運わるく小諸町で病氣に罹つた。そして其處の或るお醫者の二階に二ヶ月

も郷里に留り、大正二年六月上京して小石川の大塚窪町にさゝやかな一戸を構へた。その時はもう長男が生れて

た。初めに言つた彼女の記憶といふのは概ねこの大塚窪町時代に係つてゐるのも無理ならぬ話である。幸にツイ近所

のは小生の二十八歳の時であつた。當時彼女は新宿の女郎屋の間に在る酒屋の二階を借りて、其處で遊女たち

半分自ら稼いで過してゐた。學校を出ると程なく京橋區の或る新聞社に勤めた。

浪人してゐてやがて短歌中心の文藝雜誌『創作』を京橋の東雲堂から發刊する事になつた。編輯を續けること四五ヶ月、