箱根 沼津町 香貫山 富士山 沼津市 足柄 愛鷹山 東京 巣鴨

海岸がいゝといふわけで、そしていつそ離れるなら少なくも箱根を越した遠くがいゝといふので、何の縁故もないこの沼津を選ん

の窓からは近く香貫徳倉の小山が見え、やゝ遠く箱根の圓々しい草山から足柄の尖つた峰が望まるゝ。北の窓からは愛鷹

、矢張り沼津を――私が越して來てゐるうちに沼津町から沼津市に變つてゐた――中心として恰好な空家は無いか

て見ると、今度借りた家のうしろに位置してゐる香貫山といふ小松ばかりの圓つこい岡が同じく微雨の中に眺められた。

望まるゝ。北の窓からは愛鷹山を前に置いた富士山が仰がるゝ。

を――私が越して來てゐるうちに沼津町から沼津市に變つてゐた――中心として恰好な空家は無いかと探し

徳倉の小山が見え、やゝ遠く箱根の圓々しい草山から足柄の尖つた峰が望まるゝ。北の窓からは愛鷹山を前に置いた

から足柄の尖つた峰が望まるゝ。北の窓からは愛鷹山を前に置いた富士山が仰がるゝ。

する氣になつた直接原因の一つ、一つは自分自身東京の繁雜な生活に耐へられなくなつて、どうかして逃げ出さう

めらるゝのをも斷つて、その日の汽車で私は東京へ歸つた。そしてその旨妻に報告すると共に、翌日から荷造りに

私が前に言つた青年やその父の老醫師や、東京の或る實業家の持家であるその家を預つて差配をしてゐる

に氣付いたのは來客の無くなつた事であつた。東京にゐては一日少なくも一人か二人、多い日には十人からの來訪

其處と市内との往來に要する郵便の時間よりも、東京と沼津との間に要する時間の方が寧ろ速い程であつた。

に附きものである郵便の都合もたいへんによかつた。東京と云つても私のそれまで住んでゐたは郊外の巣鴨であつた

樣になつてゐたのだ。それでもまだ／＼東京よりましだと信じてゐた。イヤ現にさう信じてゐるのではある

とは違つた交際がまた此處でも始められた。東京では廣くはあつたが多く書生づきあひの簡單なものであつた

な環境が自分の身體のめぐりに出來て來た。東京にゐた時とは違つた交際がまた此處でも始められた。

わけでは決してなかつた。半年一年とたつうちに自づと東京にゐた時と同じ樣な環境が自分の身體のめぐりに出來て

年の永滯在となつてしまつた。斯うなると改めて東京へ歸つてゆくのが億劫になつた。いつそ此儘この沼津に

で、苦笑しながら私は早速に空家さがしを始めた。東京へ引揚ぐるのはもともといやだし、他の土地へ移るといふも億劫

と云つても私のそれまで住んでゐたは郊外の巣鴨であつたが、其處と市内との往來に要する郵便の時間よりも