樹木とその葉 30 駿河湾一帯の風光 / 若山牧水

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地名一覧

赤石山脈

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交はり、ずつと遠くには駿河信濃國境に連亙した赤石山脈が眞白に雪を被つてつらなつてゐた。そして殆んど正面にこれも常よりは高く

乙女峠

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に恰好な場所がある。それは御殿場の南に當る乙女峠である。御殿場から箱根の仙石原や蘆の湖方面に越ゆる峠で、

嶮しかつたが、思つたよりずつと近く峠に出た。乙女峠の富士といふ言葉は久しく私の耳に馴れてゐた。其處の富士を

富士を語るに足らぬとすら言はれてゐた。その乙女峠の富士をいま漸く眼のあたりに見つめて私は峠に立つたのである

乙女峠の富士は普通いふ富士の美しさの、山の半ば以上を仰いでいふの

幼い形容詞が多くお羞しい文章であるが、初めて乙女峠から富士を見た時は私はまつたくこの通りに感じたものであつた

乙女峠から眺めて十里四方にも及ぶであらうと言つた曠野は大野原と呼ばれ

箱根

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それは御殿場の南に當る乙女峠である。御殿場から箱根の仙石原や蘆の湖方面に越ゆる峠で、御殿場驛から二里あまり

雁坂峠

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に擴がつた裾野の大きさはまたどうであらう。東に雁坂峠足柄山があり西に十里木から愛鷹山の界があり、その間に抱く曠野

田子の浦

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、三保の松原龍華寺の富士、薩※峠の富士、田子の浦の富士、千本松原の富士、牛臥から靜浦江の浦にかけての富士

なかで私の一番好きなのは田子の浦の富士である。田子の浦といふと何となく優美な――例へば和歌

正面した形で仰がるゝ山であるが、わけてもこの田子の浦からは近く大きく眞正面に仰がるゝ思ひがする。豐かに大地に根ざして中

の廣さを保つてずつと西三里あまり打ち續いて田子の浦に終つてゐるのである。海岸の松原としては全く珍しいと思ふ

天城山

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する時ごとに感じてゐたのであるが、伊豆の天城山に登つて富士を仰いだ時、將にそれを感じた。そしてそゞろに

大瀬崎

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的な入江だといふ氣のする處である。伊豆の大瀬崎と、狩野川々口以東の海岸の圍み合ふ入江は二三里ほどの奥

清見寺

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川の鐵橋を過ぎて岩淵蒲原由比の海岸、興津の清見寺、さらに江尻から降りて三保の松原に到るあたりのことを書くべきであらうが

伊豆

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伊豆の國と駿河の國のあひにある入江の眞なか漕げる舟見ゆ

狩野川の河口、即ち沼津の町から出て伊豆の西海岸の諸港を經、その半島の尖端に在る下田港まで行く汽船がある

全く模型的な入江だといふ氣のする處である。伊豆の大瀬崎と、狩野川々口以東の海岸の圍み合ふ入江は二三里ほど

牛臥山

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の川口を出るとすぐ左折して蠶の這つた樣な牛臥山を左に、靜浦の御用邸附近の深い松原を見て江の浦に入り

久能山

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といふとどうしても富士山がその焦點になる。久能山より仰ぐ富士、三保の松原龍華寺の富士、薩※峠の富士、田子の浦の

富士山

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駿河灣一帶の風光といふとどうしても富士山がその焦點になる。久能山より仰ぐ富士、三保の松原龍華寺の富士

はづれを前景にして次第に高く鋭く聳えて行つた富士山の全體が仰がるるわけである。

富士山は何處から見ても正面した形で仰がるゝ山であるが、わけても

である。何の技巧裝飾を加えぬ、創造そのまゝの富士山を見る崇嚴を覺ゆるのである。繪でなく彫刻でなく、また蒔繪

なく、また蒔繪や陶器の模樣でない山そのものの富士山を仰ぐことが出來るのである。

が、入江だの丘陵だのといふ前景が付いて却つて富士山を小美しく小さなものにしてゐる。ともすれば模樣繪の富士山にし

美しく小さなものにしてゐる。ともすれば模樣繪の富士山にしてしまふ恐れがあるのである。

前景のあるを嫌ふと言つた。もう一ヶ所前景なしに富士山を見るに恰好な場所がある。それは御殿場の南に當る乙女峠で

其處で見た富士山の事をば私は曾て書いておいた。それを此處に引く。仙石原

以上、すべてその麓の近い處からのみ仰ぐ富士山を書いて來た。今度は少し離れた位置からの遠望を述べて見よう。

浮ぶと云つた形でづばぬけて高く大きく聳えてゐる富士山を見出して、非常に驚いたのであつた。

野や濱や山の上から見た富士山のみを書いて來た。海から見るそれをひとつ書いて見よう。

島があつて、その島のなゝめ横に例の富士山が海を前にして仰がるゝ。其處より背後の岡を越えて一里

愛鷹山

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山脈の麓まで及んで居る。その平野の東寄りの奧に愛鷹山がある。沼津あたりからはこの山が丁度富士の前に立ちはだかつて見えるの

であらう。東に雁坂峠足柄山があり西に十里木から愛鷹山の界があり、その間に抱く曠野の廣さは正に十里、十數

ゐた。そして殆んど正面にこれも常よりは高く見ゆる愛鷹山が立ち、それの裾野の流れ落ちた所には駿河灣が輝いてゐた。

富士が嶺の裾野に立てる低山の愛鷹山はかすみこもらふ

松山

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舟ひとつありて漕ぐ見ゆ松山のこなたの入江藍の深きに(四首江の浦)