ロウモン街の自殺ホテル / 牧逸馬

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地名一覧

ハノイ

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仏蘭西領東京支那の知事に、ハノイ・シャンという背の高い、運動家タイプの立派な紳士があった。土人ながら親切

いたが、この、余りにも変った化物のようなハノイ・シャンを目の当りに見ては、何うしても、嫌悪が先に立った。自分自身

争って好意を見せた女性達の今の態度は、一層ハノイ・シャンを駆って、狂暴な自暴自棄へ陥さずには置かなかった。一説には、

倫敦

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その以前、倫敦ハットン・ガアードンの金剛石商でチャアルス・ランガムという人が、巴里へ来て、

ブリュッセル

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になった。十四号室には、その二日前から、ブリュッセルの宝石屋ヴァルダン氏というのが泊っている。勿論テイラア自殺事件のことは

アムステルダム

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。客筋は、主として白耳義のアントワアプや、和蘭のアムステルダムからの宝石商人で、両市とも、ことに後者は独占的に世界の金剛石市場

巴里

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巴里人らしい早口で、

給仕人のポウルは、これも巴里人らしく鷹揚に眼を円くして、

十月五日だった。テイラアは、南阿産の金剛石を巴里の市場へ捌きに来た者で、仕上げしたダイヤや、まだカットし

いる。英国の宝石商ブルウス・テイラアが、南阿弗利加から巴里へ来て、このホテルへ止宿ったのは、事件の起る三日前

巴里のロウモン街に、オテル・ダムステルダム――アムステルダム・ホテルというのがあった

語を話さないので、あまり外出もしない。秋の巴里は重く曇って、ともすれば黒い雨が通り過ぎる。テイラアは毎日喫煙室の

・アムステルダムの自殺室という有難くない綽名がついてそろそろ口さがない巴里童の噂に上りつつあった――に暮らして貰って、部屋そのもの

ダムステルダムが、一躍巴里中の視線を集めて、その当座、巴里の話題といえば、この自殺室のことで持切りだった。広告には

ほか知る者もなかったロウモン街のオテル・ダムステルダムが、一躍巴里中の視線を集めて、その当座、巴里の話題といえば、この自殺

れ得る適当な説明を募って懸賞金を掲げたりして、巴里は勿論、全仏蘭西からもう大陸のセンセイションになっていた。今までは、

行った巡査まで自殺したとなると、騒ぎは大きい。巴里の心臓に幽霊ホテル、自殺室などと新聞は書き立てる。幾ら屍骸を検べて

貧しい青年で、広い巴里に、これという知り合いもない。田舎から出て来て、医者の免状

。結婚後、まるで人が変ったようだ。一日に一度、巴里の最高級商店街であるルュウ・ドュ・ラ・ペェへ出掛けて、そこのキャルティエ

遺産とともにこのホテル商売を引き継ぐと間もなく、当時巴里とアントワアプの間をダイヤモンドを持って始終往ったり来たりしていた常客

肥り気味の、お饒舌で世話好きで激情的な、典型的な巴里の下町っ児で、ホテル・アムステルダム自慢の家庭料理というのは、夫人自身

十四号」が「自殺室」として、こうして巴里中に、仏蘭西じゅうに、いや、大きくいって全欧羅巴に有名になる

開いている。白い石造の五階建てだ。この辺の巴里の下町の建築によく見るように、低い屋根裏にも幾つか部屋があっ

巴里ロウモン街のオテル・ダムステルダムは、十八世紀風の古い、小さな建物である。

の自殺室」なる事件の記録は、一九〇七・八年の巴里版 Chronique des Taibunaux ―― Compte rendu des proces

貧しい青年で、広い巴里に、これという相識もない、田舎から出て来て、医者の免状

号室を警察の管理に移すと同時に、急遽上司である巴里警視庁のムッシュウ・ドュフラスの出張を求める。

ところに応用されるに到ったのである。その時分の巴里は、欧羅巴の政治の中心であるとともに、人間の塵埃棄場

博士が創案したのは、一八七五年で、間もなく巴里警視庁鑑識課長に就任し、一八八八年二月にこのベルチョナアジュ法は初めて

巴里ジャアナリズムの全スポットライトは、以前に増した興味と関心をもって、またこの

当時、亜米利加の有名な私立探偵局ピンカトン・エイジェンシィの巴里特置員で、バニスタアという辣腕家があった。スクリブ街に事務所を

ハットン・ガアードンの金剛石商でチャアルス・ランガムという人が、巴里へ来て、セイヌ河へ投身自殺した事件があったが、これを

――蜘蛛と綽名されて、名を聞いただけで巴里人を縮み上らせた天才的な、そして残虐な犯罪常習者となったのだ。

信望を一身にあつめていたのだが、これが後巴里で 〔L'Araigne'e〕 ――蜘蛛と綽名されて、

を憎んだ。世を呪った。そして、故国を捨てて巴里へ走ったのだった。

の恐怖となったのだ。蜘蛛のハノイ・シャン――巴里の何処かに、そういう存在が蠢いていることは、誰でも知っ

狂人のあたまから割り出す狡猾猛悪な犯罪は、忽ちにして巴里の恐怖となったのだ。蜘蛛のハノイ・シャン――巴里の何処か

巴里へ来た最大の目的は、出来ることなら、名医の再手術を受けて

東京

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さて、場面はここで、俄然極東の東京支那へ――唐突にも――! 急転するのだ。

この一団の悪党の首領は、あのハノイ・シャンという、仏領東京支那から来た有名な狂人の犯罪者に相違ないというのだ。

仏蘭西領東京支那の知事に、ハノイ・シャンという背の高い、運動家タイプの立派な紳士

まだ故国の仏領東京支那にいる頃のことである。