倫敦 ボストン 神戸

し乍ら皆色々と彼の経験を尋ねた。歯切れのいい倫敦風の英語で応答しながら彼は大得意だった。そして誰も彼の逃込ん

「そうだ、ボストンを呼べ、ボストンを」

「そうだ、ボストンを呼べ、ボストンを」

「ボストン！　真夜中ボストウン！」

一運は頤で為吉を指した。ボストンはちらっと彼を見遣って黙って先に立った。為吉は一歩室外へ踏み出そう

甲板に当って多勢の日本語の人声がして居た。ボストンの腕の下を駈抜けて為吉は機関室の鉄階段を転がり落ちた。この騒ぎで

冷えていた。掘通の扉を締めて出て行くボストンの跫音が聞えた後は、固形化したような空気が四方から彼を包ん

貰った後が痛むと言って終日不機嫌だった。為吉が神戸中の海員周旋宿を渡り歩いた末、昨日波止場に近いこの合宿所へ流れ込ん

神戸の街が蜃気楼のように霞み出すと、為吉は始めて解放された

「神戸だ！　暴風で引返したんだ！」

「神戸だ」

「なに、神戸？　四、五日機関が廻っていたと思ったが――」

暫らくして再び神戸を抜錨した諾威船ヴィクトル・カレニナ号が大洋へ乗出すと間もなく、