八丁堀 本所 入谷 根津 神田

「八丁堀へ持つて行く筈だが、もう少し考へて見る積りで、此處に持つ

その晩、平次は八丁堀の與力、笹野新三郎の役宅を訪ねました。

「隱すな。本所のお屋敷を出た時刻を訊くまでもなく、俺にはよく解つて

つれて來ましたよ。少しばかりの知合を辿つて、入谷から飛んで來たんだ相で――」

、十八九の美しい娘が、足袋跣足のまゝで、入谷から神田まで驅け付けたといふことは、容易のことではありません

その研屋五兵衞が、昨夕酉刻半過ぎ入谷の寮で、直刄の短刀で左首筋を貫き、紅に染んで死んで

「お前さんは、どうして入谷の寮なんかへ行つて居たんだ。お絹さんとかゞ居ちや、あんまり

し、落付いて養生も出來ないから――と、ずつと入谷の寮に泊つて居ります。それに、お絹さんは、思つたよりは

も浮び切れません。お願ひでございます。親分さん、入谷まで行つて、樣子を見てやつて下さい」

入谷へ行き着いたのは午過ぎ、役人は歸つてしまつて、三輪の萬七と

五兵衞の娘のお糸、――變な羽目で、入谷の寮で、父親の五兵衞が旦那に手渡すところを見たのだ相です

「前の日五兵衞から受取つた短刀を持つて行くと、丁度入谷の寮の四方には人も無く、五兵衞は格子の中で、何か

その貞宗の佩刀を持つて、兎も角も、私と一緒に入谷まで、お出で下さいませんか」

二人は根津から入谷へ、――薄寒い早春の夜風を衝いて急ぎます。

その大名高家への連絡を取つたのは、根津の大町人、公儀御用達を勤むる石川良右衞門で、諸大名は言ふに

「それが大變でございました。何んでも、根津の石川良右衞門樣が、公儀御腰物方から、御手入を申付けられた

番頭の宗七、手代の駒吉、それに親類が二三人、根津の御用達の石川良右衞門――ざつとそんなものでした。

不行屆』といふ名目で彦四郎貞宗を、もう一度、根津の御用達石川良右衞門の手に戻されたのです。

錢形平次は、その晩、根津の豪華な屋敷に石川良右衞門を訪ねました。

二人は根津から入谷へ、――薄寒い早春の夜風を衝いて急ぎます。

八九の美しい娘が、足袋跣足のまゝで、入谷から神田まで驅け付けたといふことは、容易のことではありません。