門前町 八丁堀 辰巳 大阪 入船町 日光山 江戸 奈良 深川 日本橋

「門前町の呉服屋、巴屋の伜で重三郎、勘當されて出入りの職人の家

「からかつちやいけません、――昨夜八丁堀の組屋敷に泊つて、笹野の旦那のところで、少しばかりお調べの手傳

「此方は八丁堀の旦那にお小言を頂戴してちつとも目出度かアありませんよ」

は、近頃熱くなつて通つて居る、深川の踊り子、辰巳で一番と言はれた、美乃屋のお小夜といふ妓ですよ」

門前山本町の美乃家のお吉――さう言つた丈けぢや、辰巳にも岡場所にも縁の無ささうな親分は御存じないでせうが、

せう、伊與之助は三宅島に流されたとも、大阪で生きて居るとも傳へられました。

母屋は入船町の一角を占めて、間口十何間の繁昌、使つて居る番頭小僧、

事があつた末、相も變らぬ夜遊びの歸り、入船町の入口で、暗がりから襲はれて脇腹を刺され、厚着のお蔭で、傷

は、姪のお照に逢ひ度さに、島田町から入船町あたりを、ウロウロして居たことでせう、どうぞ、重三郎さんをお助け

の材木屋になり、その上苗字帶刀を許されて、日光山の御用も勤めると聽いたが」

それは江戸の法規で、心中の流行に手を燒いた幕府は、心中崩れの男女に

いふのは、一代に暴富を積んだ材木屋で、江戸の建築の半分は引受けて居ると言はれ、その金に物を言はせる横暴

。上方通ひの船へ乘つた相ですから、當分江戸へは來さうもありませんね、ところで親分は？」

錢形平次もそれはよく知つて居ります。後の世の奈良茂、紀文と共に、百萬兩の富を積んだといふ、江戸

「深川入船町の鍵屋源兵衞――親分も御存じでせうね」

「その伜が噂の種で、深川中で知らないものはありやしません――廣い江戸にも、

上がつたのは、近頃熱くなつて通つて居る、深川の踊り子、辰巳で一番と言はれた、美乃屋のお小夜といふ妓

縁の無ささうな親分は御存じないでせうが、近頃深川一番の美人で、三月前に死んだ、万兩息子の心中の

屋のお吉とわかつて、兎も角も、永代を渡つて、深川まで行つて見ましたよ」

平次と八五郎は直ぐさま、深川入船町に向ひました。昨夜の生暖かさが後を引いて、櫻

「それならわかつて居る、お小夜は深川育ちで、海も川も近いから子供の時は河童のやうによく泳い

「深川の島田町の和泉屋のものでございますが」

ました。あの優しい若旦那が、腕自慢で智慧自慢で、深川中のやくざ者でさへ、道をよけて通るといふ、鍵屋の若旦那を

お照、――曾ての許婚の顏を見る氣で、深川へやつて來たところを、いきなり鍵屋の半次郎に取つて押へられ

「俺は深川へ行つて見る」

その足で平次は深川入船町に驅けつけました。爲五郎などの連絡を惧れて、助手

ば、万兩息子の半次郎は、相對死の片割れで、日本橋の袂に三日晒された上、非人頭の手に引取られ、人別

「ところが、鍵屋の伜半次郎が、日本橋に曝し物になつたとも、非人にされたとも聽かなかつ