九つの鍵 / 野村胡堂
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まだおさまらぬ興奮を追って、電車にも乗らずに、番町の住居まで、歩いて帰るところでした。
、雪模様の空はドンよりと頭上に押し冠さって、番町の往来は人の影もありません。
も、絶え絶えに挙げた驚きの声も消えて、正月の番町の夜は深々とふけて行くのです。
、その独奏会の帰途、兄三郎の眼の前で、番町のあるビルディングの屋上から下った鉤縄に引っかけられ、夜の空へスルスルと引き揚げ
夜の明けると共に自分の家へ引揚げました。同じ番町でも、半蔵門寄りのビルから、九段寄りの狩屋邸までは、十分
五分と経たないうちに、狩屋三郎の身体は軽々と番町の往来に立っておりました。
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隠す必要もありません、実はぼく、三十年前に九州で炭鉱王と言われた、狩屋三右衛門の孫なんです」
から四年前に、祖父は私の妹をつれて、九州の阿蘇の麓に疎開して、静かに戦火を避けておりました。その
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年前に、祖父は私の妹をつれて、九州の阿蘇の麓に疎開して、静かに戦火を避けておりました。その家は
、――見るがいい、九つの鍵は、謹んで阿蘇の神霊に献ずるぞ、それッ――祖父の手が空に挙がると、九
、暁の最初の光を浴びて、キラキラと光りながら、阿蘇の噴火口の赤錆色をした熱鉄の中へ、落ち込んでしまったの
鍵は、祖父三右衛門翁が、悪者に追い詰められて、阿蘇の噴火口の中に投り込んでしまいました――と。
「九つの鍵? そいつは祖父様が阿蘇の噴火口に投げ込んでしまったじゃないか」
叔父がお祖父さんを裏切って敵に廻った、その上阿蘇の麓で一緒に生活していた、四人の人の住所もわからない
「いや、――愛子はさらわれたけれども、まさか阿蘇の麓に疎開生活をしている頃持っていたものは、四年後
も五年も身につけているはずはない、――阿蘇の麓にいる頃、愛ちゃんがそばにおくか身に着けていたもの
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大きいギャング団を作り、戦争中の混乱を利用して、阿蘇山麓の祖父の隠れ家を襲って九つの鍵を奪い取ろうとしました。―
で達者でした。妹の愛子に助けられて、真夜中の阿蘇山に逃げ登り、裏山を越して、何んとかして東京へ引揚げようとした
その時もう悪者の手が廻って、祖父と妹は、阿蘇山の噴火口の前で、数十人の悪者の包囲に陥ってしまいました」
事あるを予見して、悪者共に追われて命からがら阿蘇山に逃げ登る前、予備の九つの鍵をバラバラにして、とっさの間に
、お祖父さんが九つの鍵を隠したのは、阿蘇山の麓に疎開生活をしていた時だが、鍵はあの時お祖父
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ビルディングの管理人と称する山裏金司という中年男を、夜中ながら四谷の自宅から探し出して来て、建物中の部屋を全部空けさせて調べました
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共に自分の家へ引揚げました。同じ番町でも、半蔵門寄りのビルから、九段寄りの狩屋邸までは、十分ぐらいの距離は
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たので、お妹さんのさらわれた時刻には、横浜あたりを通っていたはずですがね」
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狩屋三郎と妹の愛子は、日比谷音楽堂の帰り、まだおさまらぬ興奮を追って、電車にも乗らずに、
てくれました。狩屋三右衛門翁の孫娘で、その晩は日比谷音楽堂にリサイタルを開いた、天才少女狩屋愛子の失踪には、容易ならぬ
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て、祖父は全財産を宝石と純金に換え、それを東京のさるところに隠しておいたのです」
だったそうです。ぼくはまだ学校があったので、東京の家に残って、学校へ通っておりましたが――」
阿蘇山に逃げ登り、裏山を越して、何んとかして東京へ引揚げようとしたのですが、その時もう悪者の手が廻って、
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少年の急を告げた報告が、交番から麹町署へ、麹町署から警視庁へと伝達され、十数名の警官が時を移さ
に、さっき馬吉少年の急を告げた報告が、交番から麹町署へ、麹町署から警視庁へと伝達され、十数名の警官