門前町 道灌山 江戸 谷中 下谷 浅草 御徒町

「顔が見えました。それから門前町の文七、倅の文太郎は七日七夜の祈祷で百両もかけたの

きかなくて、東海坊の悪口ばかり言って歩いたという門前町の文七と伊勢屋の利八は、抜け穴の事を知らないだろうな」

「不動様で思い出したが、今日は道灌山に東海坊が火伏せの行をする日ですよ。大変な評判だ、行って

「有難え。今日の道灌山はうんと人出があるから、何か面白いことがあるような気がしてなら

道灌山へ平次と八五郎が向ったのは、悠々と昼飯を済ましてから、火伏せ

、火事早い江戸の町人を救うと触れさせ、人家に遠い道灌山を選んで、火行の壇を築かせました。九尺四方白木の道場

に移り、メラメラと袈裟を嘗め上がる様子が、折から暮れ行く道灌山の草原の上に灰色の空を背景にして、あまりにもまざまざと見える

あ、ちょっと待った八。それからもう一つ、あの日道灌山へ、大徳屋徳兵衛は夏羽織を着て来なかったか、それを訊いて来

は門前町の文七に違いありませんよ、親分。あの日道灌山へ行っていたことは皆んな知っているし、護摩壇の下に抜け穴の

東海坊というのは、そのころどこからともなく江戸に現われた修験者で、四十五六の魁偉な男でしたが、不思議な

東海坊の法力で、一番江戸の町人を驚かしたのは、いかなる難病も癒らぬことはないと言われた

その日東海坊は火伏せの行を修して、火事早い江戸の町人を救うと触れさせ、人家に遠い道灌山を選んで、火行の

ても癒らなかった。嫁入りも婿取りも諦めていると、江戸で五番とは下らぬ大町人室町の清水屋総兵衛の倅総太郎が見初めて、

「谷中の堂へ引揚げようか、ここじゃ調べもなるめえ」

「谷中へ引揚げた時はそれを着ていなかったね」

総代――世話人と呼ばれているのは二人、一人は下谷一番といわれた油屋で、大徳屋徳兵衛。もう一人はこの堂を建てた

病気は治ったが、それから東海坊にだまされて、下谷一番という身上の半分は痛めたろうといわれる大徳屋徳兵衛は、いわば東海坊

「お静、羽織を出してくれ。ちょっと下谷まで行って来る」

いつにもなく羽織を引っかけた平次、それから下谷一円を廻って髪結床、湯屋、町医者と、根気よく訪ねました。

平次は疲れた様子もなく、ガラッ八を伴れてまた下谷へ取って返したのです。

平次が訪ねて行ったのは、下谷一番と言われた、油屋の大徳屋でした。

なら違っていると言って貰いたい。――大徳屋の一人娘下谷小町と言われたお菊さんは、父親の手一つで育ったが

「大徳屋さん。――あっしは下谷中を駆け廻って、七日の間にこれだけの事を捜り出した。

三百両、五百両と、鰻上りの口止め料を取られ、下谷一番の油屋と言われた大徳屋の身上も、このままで行っては

小さいながら豪勢を極め、信者十万、日々の賽銭祈祷料、浅草の観音様をさえ凌ぐと言われました。

業の深いのは癒らないとされております。例えば御徒町の伊勢屋の利八さん、これは喘息がどうしても治らず、先達様