銭形平次捕物控 198 狼の牙 / 野村胡堂
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「あの男ですよ。加賀の白山から出て來た伍助といふ男で、熊の膽だか鼻糞
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下總屋を覗いたことまでわかつて居ますが、それから松永町の賭場へ行つて、一と勝負二た勝負眺めて居たさうです。本人
が面白くない顏をして居るので、プイと飛び出し、松永町の賭場に潜り込みました。酉刻半(七時)から戌刻半(九
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番所では口を割らず、八丁堀に引いて行つて、精一杯責めて見ましたが、あの晩は早
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その間に顏の良い御用聞で、入舟町の佐太郎といふのが、丸屋の勇三を擧げてしまひました。あの晩お
「入舟町の佐太郎親分が擧げて、昌平橋の辻番に預けてありますよ」
男のやくざ者轟三次が、腰繩をうたれて、入舟町の佐太郎に見張られて居ります。轟の三次は二十五六の苦味
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――今日は、そんな氣樂な話ぢやありません。江戸の眞ん中に狼が出て、若い娘を追ひ廻すつて話をお聽
「江戸の眞ん中に狼? 嘘だらう」
、滅多に人里に出る獸ぢやないといふよ。それが江戸の眞ん中へ、ノコノコ流れ出てたまるものか」
しちや行儀が良過ぎるぜ、――まア宜いや、どうせ江戸の眞ん中へ出て來る獸だもの、素直な出來ぢやゐめえ」
「そんな犬が江戸に居るのか」
、斯んなに眞劍になつたことはありません。江戸の眞ん中で、若い娘が續け樣に二人まで、猛犬に喉笛を
お光が二年前に下總の在所から兩親に死に別れて江戸へ出て來た時は――打ち明けて申上げると、私と一緒になるやう
平次のやうな貧乏摺れのした江戸つ兒に取つては、それは解くことの出來ない謎だつたのです。
居たんでせうよ。下總から出て來て、江戸の眞ん中で草鞋を作るやうな男は、女の子に持てつこはありませ
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「この間まで佐久間町の丸屋の若主人と何んとか言はれて居ましたが、近頃
、突つ込んで調べて見ると去年の暮あたりから、佐久間町の小間物やで丸屋の伜勇三といふ、飛んだ業平男と懇ろになり
光も私に打明けてくれませんが、何んでも佐久間町の丸屋の勇三さんと懇ろにして居るとか、柳原の三次親分
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「入舟町の佐太郎親分が擧げて、昌平橋の辻番に預けてありますよ」
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可愛らしさと艶めかしさは、素人娘には珍らしいほどで、神田中の若い男の血を湧かせたと言はれたのも、決して誇張
綺麗で愛嬌があつて、少し浮氣つぽくさへあつた、神田で評判の色娘お絹が、この三十歳の地味な男を、默
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搜して居ましたが、今朝になつて聖堂前のお茶の水の崖の中途に、お絹と同じやうに、喉首を噛み破られた死骸
お茶の水の崖の上は、此方も向う側も一パイの人出でした。それを
、その晩は到頭わからず、翌る日の朝になつて、お茶の水の崖下に死骸が引つ掛つて居るのを通行人に見付けられ、それ